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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第99話 標的(その38)】 

 午後の稽古に付き合った兵庫は、着流しに着替えはじめた。
「どちらへ?」
「新門殿の浅草における抑えが緩んだため、東都組や繁蔵一家が現れたことを昨晩話しましたが、午前中調べたところ間違いなさそうです。新門は相変わらず台場に力を注いでいるようですから、遠からず又、悪党どもが現れるだろうとの読みです。その事については矢五郎さんと弥一さんが調べ始めました。ただ、東都組も繁蔵一家も根を張るのに失敗しました。失敗した訳は私に目を付けられたから大勢の腕達者により制圧されたというのが久蔵さんや繁蔵さんの考えです。ただ私が居なければ、大勢の腕達者は纏まった動きが出来なくなるはず。だから私を除けばという者が出てくる筈と教えてくれましたので・・」
「それで外出ですか」
「はい、これからは決まった行動をとり、相手に襲う機会を与えることにしたのです」
「機会を与えないとどうなるのですか」
「私を誘(おび)き出すために良からぬことを思いつくでしょう。どうせ狙われるのなら寄り道させずに早く決まりをつけたいですね」
「分かりました。ところで今日はどちらへ」
「先ず、履物屋の玉三郎さんの所に」
「えっ、どのような噂を流して貰うのですか」
玉三郎は噂を広める天分を持って居る男で、これまでにも何度か頼んだことが在るのだ。
「鐘巻が居る限り浅草で悪さは出来ない。それと周りには猛者が居るので狙うなら一人の時の方がいいということです。先ずは他所(よそ)から来る悪にそのことを知って貰わないと始まりませんからね。それが済んだら、中之郷元町の養育所に入り、道場の進捗を確かめ、そして向島の村上さんに会って来ます」
「どのような御用でしょうか」
「屋敷の裏に家を建てましたが、空いて居ますので、新しく来た男に住んで貰おうかと思って居るのです」
「誰か食事の世話をする者も入って貰わないといけませんね」
「そうですね。誰にするか考えておいて下さい」

 押上を出た兵庫は中之郷元町・養育所の門前の履物屋を目指してやって来た。
店に入る前に玉三郎方が兵庫の姿を見て出て来た。
「先生、素通りしないで下さいよ」と歩み寄って来た。
「養育所の者が使う履物は出来るだけ玉三郎さんの店で買うようにして居るはずですが・・」
「はい、有り難うございます。たくさん来られたので勉強させていただきましたよ」
「それは有り難うございます。折角声を掛けて頂きましたので、お願いしても構いませんか」
「遠慮しないで下さい。商売ですから」
「履物ではなく、私の噂を浅草で流して貰いたいのです」
「先生の噂ですか。御門弟を集めたいのですか」
「そうでは在りません、聞いて下さい」
「分かりました」
「浅草は新門辰五郎さんが居るので、新しいやくざ者が一家を構えることが出来ません。それが、黒船が来たせいで幕府は台場を作ることに成り、新門の子分衆は集めた荒くれたちが狼藉を働かない様に品川の方に出払って居るのです。そのため、浅草が手薄になり、やくざ者が入り込み始めています。そこでそうしたやくざ者たちに私の噂を流して貰いたいのです」
「訳は分かりましたが、どのような噂を」
「浅草で甘い汁を吸おうとしても、鐘巻兵庫が大勢の猛者を連れてきて邪魔をされ追い出される。ただ、猛者たちは鐘巻が居ないと集まらないので、無駄骨を折りたくなかったら先ず鐘巻兵庫をやっつけることだ、という内容ですが」
「冗談じゃないですよね。先生が御強いのは知って居ますが、卑怯な手も使う相手ですからよされた方が・・」
「これも修行ですから、お願いします」
「修行ですか・・分かりました。気を付けて下さいよ」
「それでは頼みます」

 兵庫は頼みごとを済ませると向かいの養育所の中へ入って行った。
道場の移築には何人もの手助けが加わり、兵庫が思って居た以上に捗って居た。
兵庫は邪魔にならない様に、働く者たちに頭を下げ、その場を去り、向島の村上茂三郎の家に向かった。

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Posted on 2017/08/05 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学