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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第99話 標的(その39)】 

 向島の畑中にポツンと建つ一軒家は村上茂三郎の家と呼ばれてはいるが、養育所の持ち物で留守居役として村上に管理を任せている。この家は村名主が放棄していたもので養育所の始まる切っ掛けとなる事件が起きたところで、不吉なことが続いたためか、草生していたのを名主に頼み手に入れたものである。
屋敷の外にもいくらかの敷地を付けて貰ったお陰で、間口十五間、奥行四十間となり、凡そ二反歩の広さである。
そこで兵庫は増えた敷地に養育所のために家を建てさせたのだ。先日は共同の風呂場も出来、あとは入居を待つばかりに成って居た。

 村上家を訪れた兵庫が母屋の土間に入って行くと、茂三郎の妻・縫が
「お待ちしていました」と来た訳が分かって居るかのように話しかけて来た。
「そうですか、裏に造って頂いた家を使わせて貰いに参ったのですが」
「既に娘たちで一軒お借りしていますが、家族用が三軒、独り者用が五部屋残って居ます」
「男の子たち十三人と一家族をお願いしようかと・・」
「中之郷のお屋敷に入られた方々かと思って居たのですが・・」
「あの方々の多くは未だ将来のことを夢見て居ませんので、何をすればよいのか分かって居ません。暫くは近くに置いて仕事をさせるつもりです」
「一家族とはどなたでしょうか」
「今回の事件で来られた侍の中に家族持ちの方が居られました。そのかただけ押上住まいにしました。その方には保安方として働いて貰えるよう励んでいただいています。奥様と娘さんには十軒店の味噌・醤油屋、乾物屋二店の番頭役をお願いしています。未だ本人には話して居ませんが山口藤十郎殿、奥様の小百合殿、娘の百恵殿です。こちらに移っても十軒店の方は見て貰う予定です」
「娘さんはお幾つですか」
「お琴より一つ下といっていましたから、十五歳だと思います」
「お預かりします子供たちはどのような行動に成りますか」
「通常は朝起きたら押上に移って貰い、夕飯はこちらに成りますが、賄い方については志津が考えています。もし女の子がそのために来るとすると、母屋に部屋を借りることになるかもしれません」
「それはむしろ歓迎です。ここの女の子は舞一人ですから」
「それでは、家を見てきます」

 裏に出ると、生垣作りをしていた茂三郎が手を休めた。
「今、奥様に話はしておきましたが、男の子たち十三人と山口家ご家族三人をこちらに住まわせて貰いに、家を確かめに参りました」
「どうぞ、先ず、子供たちの入る家を見て下さい。この北側の家は総間口八間、奥行き二間半です。ご覧の様に一軒の家を間口一間半の六畳間を四部屋、真ん中の一部屋だけは間口二間の八畳間に戸襖で仕切り五部屋にしたものに、南側に半間の通し廊下を付けたものです。
出入口は真ん中の部屋の北側の引き戸だけですが、子供たちは使わないでしょう。廊下から降りた方が手っ取り早いですからね」
「六畳間などと云いますが、畳は入って居ませんね」
「はい道場作りにしました。それでは畳の入っている部屋を見に行きましょう」
と云い、茂三郎は振り返った。
敷地の南側には総間口八間の家を、四軒に仕切った棟割り長屋が建っていた。兵庫はその一軒を覗いた。土間に続き、二部屋続き、押入れ付きの間取りだった。
「ここに入れる人は幸運ですね。近々連れてきますので宜しくお願いします」

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Posted on 2017/08/06 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学