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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第100話 共喰い(その1)】 

 嘉永六年九月二十七日(1853-10-29)の夕刻、浅草を巡って来た鐘巻兵庫が中之郷元町の養育所に立ち寄った。
そこでは駒形から運んだ道場の移築・再建を済ませた男たちの内祝いが行われていた。これに付き合い、押上に戻ろうと、いつもより遅れて養育所を出ると門前で履物屋を営む玉三郎から、狙われていることを知らされた。
手を打った兵庫は、襲ってきた浪人五人と襲わせたやくざ者一人を捕らえ、再び中之郷の道場に戻った。
浪人は見知らぬ者たちだったが、やくざ者は道場の柱を寄進した者の一人、草加宿の千疋(せんびき)屋十兵衛だった。
十兵衛に対し、兵庫を襲った訳を問いただした。これに対し十兵衛は素直に応えた。
兵庫は浪人五人には何らの制裁も加えずに解放した。
十兵衛には百両の借用書を書かせ、これも解放した。

 草加宿のやくざの頭、千疋屋十兵衛を見送った兵庫等は道場に戻って居た。
「此度のことは仙吉さんには内緒にして下さい」
仙吉は兵庫の所にくる以前は十兵衛を親分として仕えていた。その十兵衛が兵庫の命を狙ったとは教えられなかったのだ。
「分かっております」と常吉と乙次郎が応えた。
「それでは甚八郎、小六さん、常吉さん、乙次郎さん、押上が手薄になって居ますので戻って下さい。私も此度の反省をしたら戻ります」

 道場から四人が姿を消すと、万屋(よろずや)弥一が呼ばれた。
「弥一、先程ここを出て行った、草加の十兵衛を追い、二・三日様子を見て戻って来てくれ。何が起きようと手を出すな」と矢五郎が言い、路銀を与えた。

 弥一が道場から出て行くと、碁四郎が
「兵さんが仙吉さんの元親分・十兵衛に引導を渡すことなく成り行きに任せたのは分かりますが、矢五郎さん、どうなると思いますか」
「わしの今の見立てでは、早ければ今夜、遅くても二・三日の内に、あの五人の浪人に殺される気がしている。余計なことを言ったからな」
 余計なこととは、十兵衛の不慮の死でその財産全てを勝五郎が得るという、とんでもない念書を交わしていることを不用意にも殺人を金で請け負った浪人たちが居る場で話してしまったことだった。
「私もそんな気がします」と碁四郎が矢五郎の返事に同意を示した。
「私も同じですが、十兵衛は嵌められて、私を狙ったような気がしてならないのです」
と兵庫が呟いた。
「嵌められた?」と皆の視線が兵庫の次の言葉を待った。
「私が支配する人・物・金について誰かが聞いたという話が有りましたね。応えたのは新門しか考えられません。もし、尋ねたのが念書を取り交わした勝五郎だとしたら、それとなくそそのかしたような気がするのです」
「そう言えば、何千両あるかもわからない養育所の隠し金を奪えればなどと言って居ましたね。草加で埋もれるのが嫌だった者にとっては、手を出さずに済まされなかったのでしょうね」と内藤が言った。
「断定は出来ませんが、旨い話を聞かされ兵さんを襲った訳ですから、嵌められた可能性は高いですね」と碁四郎がいった。
「数日の内に、十兵衛が浪人たちに殺されたとして、草加の縄張りや家などの財産は勝五郎のものに成ってしまいます。死人に口なし、勝五郎を咎めることは出来ませんね」
と兵庫がぼやいた。
「今のところ嵌めたという証拠は有りませんので咎めることは出来ませんが、十兵衛に書いて貰った百両の借用書を持って、全財産を引き継いだ勝五郎に会いに行ったら、何かぼろを出すかもしれませんよ」
と内藤がかすかに残って居る望みを披露した。
「百両の借用書は十兵衛さんが死んでも生き続けるのでしたか」
「素直に払われてしまうと、攻め所が無くなりますね」
「百両を即金で払えるほどの余裕はないでしょうから、利息の話できっともめますよ」
話しが細かく成ったところで。
「今日はこの辺で・・弥一が戻ったら知らせます」と矢五郎が締めた。

 兵庫が中之郷の屋敷を出て、押上に戻る途中も、気を抜くことは出来なかった。
兵庫を襲う者は十兵衛に限ったことではなかったからだ。
また兵庫が敢えて狙われる立場に身を置いていることを押上の養育所の男たちは知って居て、十軒店の外に出て戻って来る兵庫の姿を見て顔を見合わせ、ほころばせた。

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Posted on 2017/08/14 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学