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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第100話 共喰い(その12)】 

 そこに勝五郎一家の者、残りの浪人四人と弥一がやって来た。
「弥一さん、十兵衛さんは覚悟の刺し違えをしたようだ」
「こんなに居たのに何故、止めなかったのだ」と弥一が怒った。
「まさか、刺し違え覚悟で向かい合っているとは思えなかったんだよ」と猪之吉が言った。
「そのことは後で話すことにし、覚悟の差違いなら何か言い残したことが在るのではないか。出来ることなら叶えてやりたいが」と弥一がいった。
「それでしたら、鐘巻様にお借りした百両をお返しするため、その金は十兵衛親分と勝五郎親分が取り交わした念書に基づき、不祥事を起こした勝五郎親分が十兵衛親分に渡し、返して貰うことに成りました。その金を出すため勝五郎親分がカギを持って床の間の方へ行った時皆さんの声が聞こえて来たのです。それで勝五郎親分は豹変し、脇差を抜き十兵衛親分に斬りかかったのです。それからこうなるまであっという間でした。それと、十兵衛一家の跡目を仙吉さんに、勝五郎一家の跡目を乙次郎さんの名を上げて居ました」
「私は鐘巻様の意を受けて、十兵衛さんの動向を伺って居ました弥一と申します。お二人が亡くなっておりますので、お身内の方の中に異存が在りましたらお伺いしますが」
「勝五郎の妻のきねと申しますが、お話は私もその様に聞いて居ますが、勝五郎が十兵衛さんに切りかかったと云う事は、納得してのことではなく、大人数に囲まれて仕方なく了解させられたと思うのです。鐘巻様には残された者のこともお話しください」
「ご尤もです。人の将来に大きく関わることについては鐘巻様は必ず配慮為されるはずですので、伝えておきます。ところで、百両の件は構いませんか」
「そのような大金があるとは思っても居ませんでした。有るのでしたらどうぞ」ときねが応えた。
「鍵は?」
「勝五郎さんの袂ではありませんか」と猪之吉が教えた。
加瀬が勝五郎の袂を探り、鍵を取り出した。そしてその鍵をおきねに渡した。
おきねは床の間の端に置かれている、大きくはないが鉄金具の鎧を着たような重たそうな箪笥に歩み鍵を開けた。そこには、何段か棚が在り手文庫が納められていた。その手文庫を取り出し、その蓋を開けていった。
全ての手文庫を開けたがその中には金はなく、十兵衛との念書を始めとして取り交わした書類が入っていた。
「金目の物は見当たりませんが」ときねが云い、弥一らを見た。
「それは残念でしたね」と返事をした弥一がきねの所にやって来て、箪笥の中の棚板を外し、手を奥まで突っ込むと、棚で押さえられていた奥の引き出しを引き出した」
そこには二十五両ずつ帯を掛けられた切り餅が六つ、百五十両が入っていた。
弥一は切り餅を四つ取り出し、手拭いに包むと懐に納めた。
「良かったですね。無い所から出てきました。この金は正式にこの家を引き継ぐ方に渡されると思いますので楽しみにして下さい」と云い、元に納め、鍵をかけ、その鍵は弥一の巾着に納められた。
「特に、こちらからは届け出を出そうとは思って居ませんが、如何致しますか」と弥一だ打診した。
「こちらも届け出は出さず済ませたいと思います」とおきねが応えた。
「それでは仏を・・・」
 部屋の片づけをしていると、番頭がやって来た。
「駕籠が参りました」と云い、戻っていった。
「奥様、明日葬式を済ませ戻り、鐘巻様に報告いたします。明後日には鐘巻様が乙次郎さんとこちらにご挨拶に来られると思います」
「有り難うございます。宜しくお願い致します」

 血まみれの十兵衛が運ばれ、駕籠に乗せられ刺し違えた脇差を抱かされた。
駕籠屋が一言も文句を言わなかったのは十分な金が支払われたからだろう。
十兵衛を乗せた駕籠は子分衆に警護され、弥一や浪人を従え夜道を草加宿へ戻っていった。

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Posted on 2017/08/25 Fri. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学