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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第101話 出江戸(その16)】 

 出って来たのは、きねでも麦でもない初老の男が出て来た。
「私は勝五郎の兄の寿右衛門と申します。聞けば勝五郎は皆様の主でもあり、また福寿屋の店、縄張りを取り戻して頂いた恩人の鐘巻様の命を狙ったと聞いています。その事を恥、詫び、皆様方を跡目にしたのではないかと思います。二人がお二方の跡目を継ぐ労を取ったのは勝五郎や十兵衛さんの影を取り払うためです。その影が一番濃いきねや麦が戻っては台無しになってしまいます。温かい御心は頂きますがそれ以上のことは遠慮させて下さい」
「鐘巻様は早朝に押上を出て今朝の五つには越谷の福寿屋に参りました。そこで、きね様の姿が見えないことに気付き、その訳を聞かれました。私の不在中に出て行かれたので訳は分かりませんが、仙吉と共に迎えに行く話をしたところ、それは良いことだとおっしゃいました。鐘巻様は過去より将来を考えるお方です。宿場の将来のために戻って欲しいのです」
「またまた分からぬことを仰います。きねや麦が戻ったところで宿場の将来に何も影響しないでしょう」
「姐さん、戻って力を貸して頂けないのでしたら、私は今日にでも福寿屋を出ます。宿場を任されても私一人の手には負えませんので」
乙次郎は寿衛門の投げかけには応じずに、家の奥に居るきねに話し掛けた。そして
「仙吉、お前はどうする」
「姐さん、私も千疋屋から今日中に出ることに致しますので、明日にでもお戻りください」
乙次郎と仙吉は姿を見せないきねと麦に向かって頭を下げた。
「仙吉、時間がない。駆けるぞ」
「ほいきた! 兄ぃ」
二人が飛び出していくのを小僧が見送り、足音が遠ざかっていくのを、きねと麦は聞いていた。
走りながら二人は話し合った。
「兄さん、帰る所が無いでしょうから、ひとまず草加の道場に移りましょう」
「そうさせて貰うよ。おれは跡目の席に立ち会った宿場の者に挨拶をしてから、道場へ向かう」
「私も同じようにします。子飼いの猪之吉、昇太、弥次郎が望めば引き取ることにします」
「そうしてくれ」

 越谷宿の福寿屋に戻った乙次郎は部屋に仲間と番頭を呼んだ。
「番頭さん、おかみさんには戻って頂けませんでしたので、私はお美代、好太郎と波平を連れここを出ます。好太郎問屋場に行き、草加宿の道場までの人足と大八車を借りて来て下さい。お美代と波平は荷造りをして下さい」
「分かりました」と好太郎が飛び出していった。
「ついては、番頭さん。跡目を継いだ時にお越し頂いた方々に挨拶を済ませたいので案内して頂けませんか」
「分かりました」

 番頭に最初に連れて行かれたのは八百八の暖簾を出す八百屋だった。
「申し上げにくいことですが、先程、粕壁に戻りました姐さんの所に参り、福寿屋に戻るようお願いしたのですが、寿右衛門さんにしか会えず、叶いませんでした。仕方なく私が福寿屋を出てこの宿場から去ることを告げて戻りました。後のことは宜しくお願い致します」
「分かった」
 この会話が、宿場に点在する勝五郎の元子分と交わされた。
福寿屋に戻り、荷造りを手伝い終えた。
「皆さん、短い縁でしたが、お世話に成りました。有り難うございました」
去っていく後ろ姿を見送る者の中に粕壁の寿右衛門の家で見かけた小僧の姿が在った。

 草加宿の千疋屋に戻った仙吉の動きも早かった。
家には上がらず荷造りと、荷を道場まで運ぶようにお美代、昇太そして弥次郎に指示をした。
そして子飼いの猪之吉に元子分の家に案内させ、お麦が戻らないことを理由に千疋屋を出ることを告げて回った。
戻ると、重い物を担ぎ道場に運んだ。
運び終えると、猪之吉に、
「私が千疋屋を出たことを粕壁のお麦さんに知らせてくれ」

そして、乙次郎らがやって来ると荷下ろしが行われた。
道場に坂崎の他に、乙次郎夫妻と子飼いに成った好太郎と波平そして仙吉一家三人が集まった。
「坂崎様、済みません。先生と相談して出来るだけ早く落ち着き先を決め引っ越しますので」
「急ぐ必要はない。空いて居る部屋は在る。鐘巻さんは宿場を養育所のために使おうと考えている。千疋屋や福寿屋が使えないのなら、別の物件を探すのではないか。この道場の様に・・」

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Posted on 2017/09/30 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学