FC2ブログ

09 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.» 11

洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カレンダー

【鐘巻兵庫 第102話 ほとぼり(その2)】 

 兵庫が稲、お松、お竹と千住大橋までやって来て、道場の四本柱の一本を寄進してくれた名栗屋鉄五郎の家を見ると多くのやくざ者の姿を見た。その脇差を帯びた十人のやくざ者たちに草加宿の手前で追い抜かれたところで兵庫に不安が生じた。
不安は的中した。やくざ者たちが宿場に入った所で狼藉を働いて居たのだ。
人数の多さに、兵庫一人では処理せず、連れの弥一に仙吉や道場の者たちを呼びに行かせた。やって来た仙吉の木刀が先頭の男の額を割り、子飼いの者も戦い始めたうえに道場の者や元十兵衛一家の者まで来ると人数が逆転しやくざ者は逃げを図ったが、逃げ口を兵庫に閉ざされ、結局全員が降伏した。やくざ者たちが名栗屋から来たことを知っている兵庫は、嵌められた可能性があることを教え、大怪我をした者も含め十人全員を江戸に返した。
 そしてその日の夜中に新門に押し入る者がいて、双方合わせて十四人が死んだ話がもたらされた。他にやくざ者たちの姿を見かけた名栗屋の家が燃え、主の鉄五郎ともう一人泊った怪我人の焼死体が見つかったのだ。

 この大事件を新門は穏便に済ませようと金を使い、奉行所はそれに応え、犯人捜しの無宿人狩りを行い、運の悪い無宿人や浪人を捕縛した。
 これまでが昨夜、妻の志津に聞かせた話しだったが、それに対して志津が
「変な話ですね」と云ったのだ。
「何が変ですか」
「辰五郎殿は北の守りであるお仲間の越谷の勝五郎さんと草加の十兵衛さんを死なせたのが、義理甥の孫三郎さんの策略と認めたうえで、親である義兄弟の政五郎さんに話し、お二人が死ぬ羽目になったのですよね」
「そうです」
「血なまぐさい話はもう終わらせるつもりだったと思うのですが、何故自分まで襲われる事件がほとぼりの冷めない内に起きたのか、私には草加宿で騒いだやくざ者を送り出したのは辰五郎殿の仕業とは思えないのですが」
「言われてみれば・・・」と目を瞑ったところまでは覚えていたが、夜明け間近に目覚めた兵庫は昨夜の続きを考え始めた。

 確かに、信用の出来ないものを集めて、際どい仕事をさせるのは孫三郎が失敗したやり口だった。その孫三郎でさえかなりの金を使い、浪人を集めそれを勝五郎に預けたのに対し、草加宿で見た十人のやくざ者ははした金で動く者たちで、そのような者たちを使うのは新門辰五郎らしくないやりかただった。しかし、十人は千住の名栗屋に集結してから草加に向かったのは間違いなく、新門の影が在ることは否定できなかった。
「新門でないとすればいったい誰だろう」
「昨夜の続きですか」と目覚めた志津が話しかけて来た。
「起こしてしまいましか・・・誰でしょうね」
「私は新門ではないとは言いませんでしたよ。確か、辰五郎殿ではないと云ったはずですが」
「なるほど、新門は集団で辰五郎は個人でしたか。孫三郎がやったことも当初は新門いや新門辰五郎を疑った。辰五郎には子分が多いですから、辰五郎の意に反することをする者も少なくないでしょうね」
「辰五郎殿が無事の様ですから、目立たない様に静かにしているでしょうから、特定するのは旦那様には無理でしょう」
「そうですね。しかし、辰五郎は身内より私を疑うのではありませんか」
「こちらでは押し入った者たちが新門の誰かに雇われたことは分かって居ても、辰五郎殿はそのことを知らないと思いますので、旦那様を疑ることは十分考えられますね」
「こちらが持って居る情報を書状で届けるのはどう思いますか」
「押し入った者たち全員が死んでいますので、新門の者に雇われたと云う自白が取れませんね」
「少し弱い証言に成りますが、常吉さんが千住の鉄五郎さんの奥さんから聞いた話の中に、新門から十人のやくざ者が二日ほどかけて送られて来て、草加に行き喧嘩に負け戻って来たとの証言が在りますが」
「辰五郎さんが、鉄五郎さんの墓参りに行くようなことが在るはずですが、その時に、奥様から話が出ればと思うのですが・・それだけで旦那様に対する不信が消えるかどうか・・」
「他力本願でどう動けばよいのか、決められませんのであまり刺激しないようにします」
「そうして下さい。ただし押上には籠らないで下さい。越前屋の奥様が固くなってしまいますので」
「分かりました。中之郷と駒形で極力過ごすことにします」

 ←ボタンを押して頂ければ励みになります。

Posted on 2017/10/31 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学