【鐘巻兵庫 第101話 出江戸(その26)】
兵庫はやくざ者に囲まれ、跪き謝る者がこれ以上ひどい目には合わないだろうと思い、野次馬の輪から抜け出し、後方で控えている弥一らの所に戻った。
「弥一さん、宿場の者がやくざ者に言いがかりを付けられ年寄りが難渋して居ます。これから千疋屋と道場に行き仙吉さん等を連れて来て下さい。私は南を押さえます。ただやくざ者十人は脇差を帯びて居ますので、それなりの用心をするように伝えて下さい。仙吉さんの第一声で動くように」
「分かりました」
弥一は兵庫に大八を任せ、野次馬の背後を抜け宿場の奥へと消えて行った。
暫くして野次馬が宿場の中央、北に向かってゆっくり動き始めた。そして先ほど因縁を付けられていた町人を立たせている町の者の姿が街道に残った。
兵庫は大八車を坂崎稲に任せ、災難に遭った者に歩み寄った
「何故、やくざ者の無体を受けてしまったのですか」
「よくわからねぇうちに殴り倒された。 やくざ者が云うには俺がぶつかったらしい。言いがかりですよ」
「謝ったから赦してくれたのですか」
「いや、手を出したので巾着を渡したよ。これ以上やられたら医者代の方が高くつくからな」
「それは良い応対でした。出来るかどうか分かりませんが、巾着を取り戻してきます」
兵庫が振り返り大八車を見ると、弥一が戻って居た。
やくざ者たちを追う様に野次馬がついて行くのは、まだ何かが起きることを感じてのことだろうか、兵庫も後を追った。
野次馬の動きが止まり、街道の中ほどを歩いて居た野次馬が左右に分かれ、やくざ者たちが姿を見せた。
「来たか」と呟いた兵庫が足を速めやくざ者たちの背後へ迫っていった。
やくざ者たちが街道に広がった。
「お待ちください。皆さんの御仲間の中に宿場の老人に無体を働いた者が三人居られるとの訴えが在ります。その訳をお聞かせいただきたい」
仙吉の声だったが、仙吉のそばには子飼いの三人が居るだけで、道場の者や他の助っ人の姿は無かった。
「てめぇは誰だ」
「私は千疋屋の仙吉と申します。お見知りおきを」
「千疋屋の仙吉、これは良いところで会った。畳んでしまえ」と頭らしき者が声を上げた。
何人かが脇差手を掛けるのを見た仙吉が、腰の木刀を抜くと声を掛けた男に襲い掛かり抜き終わった脇差を持つ右手を激しく打ち、更に額を打ち昏倒させた。
同時に子飼いの、猪之吉、昇太、弥次郎も脇差を抜いた者へ臆せず挑みかかった。
大将があっという間に沈んでしまうのを見せられ、抜いた脇差を構えることも出来ずにいた子分も地に伏してしまった。
「あと残りは六人だったな」と仙吉が声を上げた所に遅ればせながら道場の者や元十兵衛一家の者たちが駆けつけて来た。
これを見て、相手は戦意を無くし、逃げを図ったが、逃げ道には兵庫が居座っていて、逃げて来る者を倒していった。
結局やくざ者十人は全員が捕らえられ、武装が解除された。
十人は人目の多い街道から問屋場に引っ立てられ、あるいは担がれ移った。
「先生、こいつらどうしましょうか」
「甘やかしてはいかん。道場に女子衆をお届けし戻るまで考えておきなさい」
「鐘巻さん、そのお役はここまでで結構です」と坂崎新之丞が言った。
「そうですか、それでは奥様、お松、お竹、今日はお疲れさまでした。私は月に何度かこちらに参るつもりで居ますので、今日はここでお別れいたします」
「有り難うございました」
問屋場に残ったのは兵庫の他に仙吉を新しい頭とする者たちだった。
「さて、この十人をどうするか、常識的には罪状を纏め役人に引き渡すのが一案ですが、問屋場の方、それで構いませんか」
「鐘巻様、お役人に渡すとこの十人はひどい目に遭ってしまいます。あの頭を割られた者が“千疋屋の仙吉、これは良いところで会った”と申したそうでは在りませんか。これは誰かにそそのかされてやって来たのではありませんか。このような使い走りを咎めても背後の悪党は笑って居ますよ」
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「弥一さん、宿場の者がやくざ者に言いがかりを付けられ年寄りが難渋して居ます。これから千疋屋と道場に行き仙吉さん等を連れて来て下さい。私は南を押さえます。ただやくざ者十人は脇差を帯びて居ますので、それなりの用心をするように伝えて下さい。仙吉さんの第一声で動くように」
「分かりました」
弥一は兵庫に大八を任せ、野次馬の背後を抜け宿場の奥へと消えて行った。
暫くして野次馬が宿場の中央、北に向かってゆっくり動き始めた。そして先ほど因縁を付けられていた町人を立たせている町の者の姿が街道に残った。
兵庫は大八車を坂崎稲に任せ、災難に遭った者に歩み寄った
「何故、やくざ者の無体を受けてしまったのですか」
「よくわからねぇうちに殴り倒された。 やくざ者が云うには俺がぶつかったらしい。言いがかりですよ」
「謝ったから赦してくれたのですか」
「いや、手を出したので巾着を渡したよ。これ以上やられたら医者代の方が高くつくからな」
「それは良い応対でした。出来るかどうか分かりませんが、巾着を取り戻してきます」
兵庫が振り返り大八車を見ると、弥一が戻って居た。
やくざ者たちを追う様に野次馬がついて行くのは、まだ何かが起きることを感じてのことだろうか、兵庫も後を追った。
野次馬の動きが止まり、街道の中ほどを歩いて居た野次馬が左右に分かれ、やくざ者たちが姿を見せた。
「来たか」と呟いた兵庫が足を速めやくざ者たちの背後へ迫っていった。
やくざ者たちが街道に広がった。
「お待ちください。皆さんの御仲間の中に宿場の老人に無体を働いた者が三人居られるとの訴えが在ります。その訳をお聞かせいただきたい」
仙吉の声だったが、仙吉のそばには子飼いの三人が居るだけで、道場の者や他の助っ人の姿は無かった。
「てめぇは誰だ」
「私は千疋屋の仙吉と申します。お見知りおきを」
「千疋屋の仙吉、これは良いところで会った。畳んでしまえ」と頭らしき者が声を上げた。
何人かが脇差手を掛けるのを見た仙吉が、腰の木刀を抜くと声を掛けた男に襲い掛かり抜き終わった脇差を持つ右手を激しく打ち、更に額を打ち昏倒させた。
同時に子飼いの、猪之吉、昇太、弥次郎も脇差を抜いた者へ臆せず挑みかかった。
大将があっという間に沈んでしまうのを見せられ、抜いた脇差を構えることも出来ずにいた子分も地に伏してしまった。
「あと残りは六人だったな」と仙吉が声を上げた所に遅ればせながら道場の者や元十兵衛一家の者たちが駆けつけて来た。
これを見て、相手は戦意を無くし、逃げを図ったが、逃げ道には兵庫が居座っていて、逃げて来る者を倒していった。
結局やくざ者十人は全員が捕らえられ、武装が解除された。
十人は人目の多い街道から問屋場に引っ立てられ、あるいは担がれ移った。
「先生、こいつらどうしましょうか」
「甘やかしてはいかん。道場に女子衆をお届けし戻るまで考えておきなさい」
「鐘巻さん、そのお役はここまでで結構です」と坂崎新之丞が言った。
「そうですか、それでは奥様、お松、お竹、今日はお疲れさまでした。私は月に何度かこちらに参るつもりで居ますので、今日はここでお別れいたします」
「有り難うございました」
問屋場に残ったのは兵庫の他に仙吉を新しい頭とする者たちだった。
「さて、この十人をどうするか、常識的には罪状を纏め役人に引き渡すのが一案ですが、問屋場の方、それで構いませんか」
「鐘巻様、お役人に渡すとこの十人はひどい目に遭ってしまいます。あの頭を割られた者が“千疋屋の仙吉、これは良いところで会った”と申したそうでは在りませんか。これは誰かにそそのかされてやって来たのではありませんか。このような使い走りを咎めても背後の悪党は笑って居ますよ」
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