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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第105話 ぬくもり(その20)】 

 わかめを連れた兵庫が、押上に戻ったのは昼を過ぎていた。
入谷で食べることも出来たが、早く押上に戻りたかったわかめの気持ちが優先されたからだ。
つい先日まで食べることに苦労を重ねて来たわかめのなかにそれ以上のことが生まれていた。それが何かは押上に戻った時、直ぐに分かった。
兵庫がわかめを十軒店の飯屋に誘った時、
「母上様に戻ったことを知らせてきます」と近くの道場口からは入らず、表口から養育所内に消えた。
兵庫は笑って見送った
子供たちは母である志津といつでも会えるのだが、子供たちが増えた現在は個人的に会うのは控えようという暗黙の約束が出来ている。
ただ、与えられた用を済ませ戻って来た時などは、報告も兼ね会う事は当然なことだった。
わかめは滅多に与えられない用を済ませ戻って来た。
 母の部屋の外まで行き、座り、一呼吸入れてから
「母上様。わかめで御座います。ただ今、入谷より戻りました」と声を掛けた。
「ご苦労様でした。入りなさい」と母の声が戻って来た。
 それを待って居たかのようにわかめは障子を静かに開け入ると閉めた。
「わかめ、お前が入谷の女の子の模範に成った話が届いていますよ。頑張りましたね。学ばねばならないことはまだ沢山在ります。ただ、教えてくれる古い女の子が出払って居ます。分からないことは歳は若いですがお玉に教えて貰いなさい」
「はい、母上様」
「旦那様が顔を見せないところを見ると、お昼は未だですね。早く食べて来なさい」
「はい」と一言返事をして、わかめは部屋から出て行った。

 暫くして兵庫が志津が待つ部屋に戻って来た。
「ご苦労様でした」
「入谷の方は近くに寺を借りることが出来、駒形時代と同じように出かけることが出来るように成りました。駒形時代と少し違うのは女の子が多いことと、母である志津が傍に居ない事です。ですから女の子も入谷に閉じ込めず寺に通わせて学ばせることにしました。ただ、一つ不安が在ります」
「何ですか」
「先日の須磨殿と平田殿の婚姻の席にあの子たちを呼んだことで、押上の女の子と、入谷の女の子では置かれている立場に差が在ることを気付かせてしまいました。不満の芽が育たなければ良いのですが・・・」
「置かれている立場を押上と同じすることは出来ませんが、近づける努力はしなければいけませんね」
「はい、何か妙案が在りますか」
「昇龍院に私が通いましょうか。場合によっては泊っても・・・」
「なるほど、それが出来れば、入谷に置かれている子たちの環境を高めることが出来ますね。ただし、押上の環境低下生じるので一時的な措置ですが、和尚と相談してみます」
 そして話が発展していった。
「もう一度駒形に養育所を開きましょう。駒形なら押上に通えるうえに、狭いながら庭も在りますから」
「駒形は駒形育ちを入れましょう。自立の場所にしましょう」
「それには二階を空けて貰わないと」
「為吉さんには帳場とその隣部屋を渡し、二階は一部屋使って貰えば良いでしょう」
「それと太白先生が戻ったら、昇龍院に移って貰えば、きっと良い絵や大作も描けるでしょう」

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Posted on 2018/02/17 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学