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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第105話 ぬくもり(その21)】 

 廊下に子供たちの足音がして、その複数の影が障子に映り座るのが見えた。
「兄上様、北村様、大神田様、又四郎さんがお越しで御座います」とお玉の声がした。
「お通しして下さい」
 三人は肖像画商いで役割を分担している。
 北村徳三郎は跡取りの倅・博文の横死により断絶の憂き目を見たが、その賊を彦四郎らが討ち取ったことで縁が結ばれ、中之郷の養育所に妻・佐和と共に身を寄せている。
その北村の役割は客探し等、絵を描く以外のことを行い、絵師の負担を減らしている。
 大神田太白は絵師だが斬られ彦四郎の肖像画が評判を呼び、名を知られるようになった。
 赤松又四郎は少年だが絵の天分を志津に認められ、大神田に師事し修行しながら、主に子供の肖像画を手掛けている。
「皆様、ご苦労様です」と兵庫が労い迎えた、
「戸澤屋の絵は終わり、為吉の方に全てを渡し終えましたので、お二人には次の舛屋の話が決まるまで休んで貰います」と北村が絵師の仕事がおわったことを告げた。
「太白先生、又四郎、皆さんの御蔭で、薬に続き養育所運営にとって大切な柱が生まれたと確信出来ました。有り難うございます」
「嬉しいお言葉です。それが出来たのも、良い画題を与えてくれた皆様のお陰です」
「又四郎、お前の絵には見る人の心を温めるぬくもりがあります。おまえの雅号の一つにぬくもりと読むか、おんせいと読むかあるいは別の読み方にするかは決めて下さい」と志津が云い用意してあった紙を渡した。
それには温盛と書かれていた。
その紙を見ていた又四郎が
「これあつもりと読めませんか。私は敦盛が好きなのです」
「読めますよ。私も敦盛が好きです」
「ぬくもりにします」
「あれ、あつもりが好きなのではありませんか」
「好きですが、ぬくもりの方がもっと好きですから」
「ぬくもりか、良い雅号です。遠慮せずに使いなさい」と太白が言った。
又四郎がどのように返事をしてよいのか迷い、志津を見て嬉しそうに子供らしさを見せた。
「太白先生、私からお願いがございます」
「どのような」
「今、先生を中之郷元町の屋敷に入って頂きましたが、人が増え続けています。制作活動には不向きになって来て居ると思って居ます。そこに、また新しい男の子が十人加わる予定です。如何でしょうか、浅草の高田寺内の塔頭・昇龍寺を丸ごと借りられることに成りました。考えて頂けるのでしたらご案内致します」
「塔頭を丸ごと借りたのか」
「はい、ただし、中之郷に移る子供たちの寺子屋として暫く使いますので、その間はお待ちください。子供たちがもれなく養育所にやって来られるようにするため、志津がぬくもりを与えに参ることに成って居ます」
それだったら、その間に私も移ることにするよ。確かに子供たちが居ると絵の妨げになるが、それは子供たちが居る方が絵を描くより楽しいからだよ」
「それではこれから見に行きましょうか」
「案内してくれ」
これに北村と又四郎も付き合い、押上を出て行った。

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Posted on 2018/02/18 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学