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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第114話 正月(その12)】 

 どのような商いをするかの相談に自分なりの考えを持って居る者は、実際に商いをしている常八と建吉だけだった。
それもあくまでも薬屋と建具屋から抜けきれない範囲での意見だった。
何か安定した収益を得られなければ養育所の運営は行き詰まることは誰にも分かり、養育所の行き詰まりは侍たちにとっては我が身が詰むことでもあった。
「わしには分らぬが、決まった事には腰の物を置いてでもさせて貰うよ」
「いまはそのお気持ちだけで結構です。養育所の役目は子供たちを育てることですから、そっちをお願いします」
「子供たちが立派に育てば、孫の百丸も育つわけだな」

 話が逸れ始めた所で
「店は先の話です。先ずは継志館養育所と子供預かり所の看板を掛けましょう」
「先生、養育所の看板を掛けるのは良いとして、継志堂の暖簾も早く出したいのです。薬箪笥の準備が出来るまで、こちらに御用聞きだけでも置かせて貰えませんか」
「それは構いません。薬屋は帳場付近に陣取り番も兼ねて下さい。調度屋はこの家全体を展示場にして下さい」
「と云う事は、帳場に置く薬箪笥も建吉さん、宜しくお願いします」
「先生、全部やらせて頂けるのですか」
「先ずは部屋の襖・障子・雨戸を大工衆や経師屋の力を借り仕立て直して下さい。金なら目の前の袋に中に唸って居ますよ」
「分かりました。もう一度、厠、風呂場、台所も見て、どう直すか夢を見させて貰います」

 二階の話が終わろうとした時、一階が賑やかに成って来た。
「大工衆に畳屋が来たようです。二階の畳も変えさせましょう。ここでの話は一先ず止めますので、お引き取り下さい」

 二階から未だ惨劇の跡が残る一階に下りると、皆が気を引き締め直した。
そして長居はせずに中川親子、根津甚八郎の侍衆は戻っていった。
常吉がやって来た。
「先生、戻りお仙を連れて来ますので、それまで留守番をお願いします」
「行って来て下さい」
常吉が出て行くと碁四郎が、
「今晩は泊まらずに済みそうですね」
「そうですね。碁四郎さん、山崎丞さんの便りが来るかも知れませんので戻って下さい。内藤さんも、ここで得た金ですが管理して下さい。ただ常吉さんが戻ったら支度金を十両ほど渡したいので、下さい」
内藤は受け取った袋から十両を取り出し兵庫に渡した。

 元白子屋と云ってもまだ看板は外されておらず、新しい看板もかけられて居ない家では職人たちが働いて居た。
兵庫はその内の一人・畳屋の弥助に
「先ほど話し合って、畳表を全て変えることにしましたのでお願いします」
「本当ですか」
「それで畳の縁は部屋毎に変えて下さい」
「どうして」
「この家の中を商品の展示場にするためです。畳も商品に加えました。注文が在れば弥助さんに依頼します。その時のために請負代金の算出方法を教えて下さい」
「分かりました」

 兵庫は次に彦次郎に畳屋の弥助に言ったことと同じことを告げた。
「その事でしたら、先程、建吉から聞きました。面白いことを思いつきますね」
「それは私の周りに皆さんが居るからですよ」

夕方に成り、荷を積んだ大八車を牽く常吉と金太それとお仙がやって来た。
「先生お待たせしました」
「それほど待った気はしませんでした。これは内藤さんからです。これからは帳簿を付けるように心がけて下さい」
「それは、お仙に頼みます」
「お仙さん、手持ち金が十日分を割ったら内藤さん告げ補充して下さい。商いの利が、ここでの全支出を上回るように成るよう皆で工夫しましょう」
「楽しそうですね」
「はい」

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Posted on 2018/11/09 Fri. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学