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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第27話 瓦版(その3)】 

 催促の効果があったのか、それともそれとは関係なく期日が来て認められたのかは定かではないが、数日後には縁組のお許しが出た。
その知らせを持って平九郎が駒形の兵庫の家にやって来たのは二月七日、朝五つと早かった。
朝飯を食い終わった兵庫が陽の差し込む表の板の間で、使われなくなった竹刀を直すため選別している時だった。
大戸口から入ってきた平九郎は兵庫が竹刀の束を傍(かたわ)らに置いているのを見て、訪れた要件を後回しにした。
「先生。・・・お~、この道場にこれほどの竹刀が有りましたか」
「よくきたな平九郎。忘れたか一年前二百石の仕官話を辞退した後、門弟が増えた時期があっただろう。あの折、買い入れたものですよ」
「あの時は、地震の後の津波のように入門志願の門弟が押し寄せて来ましたが、引くのも早かったですね」
「稽古がきついのか、庭道場で汚れるのが嫌なのか雨が降って道場を休みにしたら、その後晴れても来るものが半減し、気が付いたら平九郎と健次郎の二人だけになっていた」
「その私も、道場に休みながらも通えたのは今思えば、旨い飯が食えたからのような気がします」
「そうだったか。ところで今日も飯を食いに来たのか」
「そうでした。金子家の多恵殿との祝言の日取りが決まりましたので、先生御夫妻に御越し願いたく、お願いに参ったのです」
「それは目出度い話です。志津にも聞かせるので上がりなさい」
「そう致したいのですが、私どもにとっても急な話で、これから父と親戚回り等に出かけねばならないのです」
「そうでしたか。それではその急な話の日取りと場所だけでも聞かせてください」
「はい、二月十五日の夕七つ、金子の屋敷で執り行います」
「あと十日も無いとは、支度が間に合うのか」
「先様の都合ですので、私は身ひとつで参ります」
「分かりました。こちらからも話がありました。辰五郎と金工細工師の栄吉が今、小柄(こづか)と笄(こうがい)を作っています。先日見に行ったところ、仕上げに入っていましたので近々届けられると思います」
「先生、有難う御座います。急な話で兄から借用するつもりでした」
「間に合ってよかったです。話は分かりましたので屋敷に戻りなさい」

 二月十五日、祝言の定刻より早い昼過ぎ、兵庫は風呂敷式包みを下げ志津と金子の屋敷の前までやってきた。
これは先日、阿部川町の平九郎の父、若林忠衛門の屋敷に辰五郎と栄吉を伴い出来上がったばかりの小柄と笄を届けた時、その日の別れ際、平九郎のもの言いたそうな様子を見せた。
「他に何か手助けが出来るか」と、言いづらいことを言わせようと兵庫が聞いたのだ。
「申し訳ないのですが、先生の奥様に多恵の世話をお願いできませんか」
「そんなことでしたか。いつでも行かせますので」
こんな話があって、志津はこれまでに何度か金子の屋敷まできていたのだ。

Posted on 2012/07/18 Wed. 04:34 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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