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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第56話 面影(その34)】 

 兵庫が碁四郎から同田貫らしき刀の入手の経緯を聞かれ、思い出しながら話していると、表に走る足音が聞こえ、戸が開けられた。
姿を見せたのは乙次郎だった。
「先生、友三が戻ってきます」
「何人だ」
「一人です」
「分かった。碁四郎さん、表の駕籠をどけましょう」

 空駕篭を担いだ兵庫と碁四郎が裏店(うらだな)を出て、路地から表通りに出ると友三がやって来るのが見えた。
その友三とすれ違った駕籠は友三の後を歩いてきた常吉と仙吉の前で止まり、
「駕籠を忠兵衛さんの所に置いてきます」
「分かりました。 あっ、あっしの朝飯は?」
「卯太郎さんの所に置いてあります。あっ、置いてあるものは全て、常吉さんの部屋に移して使って下さい」

 庄兵衛店の大家忠兵衛に断わり駕籠を置かせて貰っていると、女のわめく声が聞こえて来た。
「あの声は?・・」と大家を見ると
「そう、益次郎さんの奥さんのお島さんですよ。見に行ったら益次郎さんが謝っていましたから何かへまをしたのでしょうが、女の名前でも出れば察しは付くのですが、出たのは己之吉とかいう男の名前なんですよ。益次郎さんが奥さんの昔の男の名前でもいったんですかね。夫婦喧嘩は犬も食わないと言いますので放っておいたんですが未だ納まらないんです」
「原因が分かりました。どうやら私の家に己之吉のようです。私が悪かったので謝ってきます」
兵庫が益次郎の家に向かうと、大家が
「夫婦仲に水を差すようなことをするとは、鐘巻様もいけませんね」
「そうです。叱って下さい。年下の私が言っても聞いてくれませんので」
「分かりました」

 碁四郎と忠兵衛がそのような話をしていることなど知らずに兵庫は益次郎の家の外から、
「鐘巻ですが、お願いがあり参りました。今朝ほど申した取りやめの件ですが、やって頂かねばならなくなりました。出来れば奥様に再度お願いしたいのですが、入っても宜しいでしょうか」
返事がない代わりに、足音がして戸が中から開けられ、益次郎とお島が立っていた。
「鐘巻先生。やらせてください。お島、いいな」
「はい」
返事をするお島の顔に喜びの笑みが浮かんでいるのを兵庫は見た。
「奥様がご不興の種はやはり、我が家の己之吉だったようですね」
「はい先日、位牌を受け取りにお伺いした折り、お会いしたのですが、お島は己之吉さんに死んだ昇太の面影を見まして、位牌を取りに行き、会えた己之吉さんを昇太の生まれ変わりだと、家に戻ってから言っておりました。また会えるのを楽しみにしていたのです。それが今朝、お島と偽医者が会う話が無くなり、偽医者に狙われる心配も無くなり、鐘巻様のお屋敷に匿ってもらう話も無くなりました。己之吉さんに会えなくなったと、先生の話を聞いてきた私の事を責めたのです」

Posted on 2014/02/10 Mon. 04:02 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

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