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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第70話 つきもの(その3)】 

 四月四日の明け六つの鐘と同時に起きた兵庫は、昨日と同じように千丸が汚した物の洗濯をし、物干しに干した。
どうやら、此れが兵庫にとって新しい日常の始まりのようである。
寮内に住む者たちが庭道場に集まり竹刀の音と気合いを立始めた。
この一時が新発田から来た者にとって侍に戻れる一瞬であり、それゆえに気合が入る。
運よく兵庫との稽古が出来ると、手直しを受けることに成る。
皆、来た時に比べれば腕前が上がっているのが自覚できている、その自覚が滅多に朝稽古を休ませなかった。

 そして近くに住む高倉や菅原の師範代役や近所の大名屋敷からも朝稽古にやって来る者も居た。
少し遅れて、新門の若い者、根津甚八郎、山中碁四郎がやって来た
そこで兵庫は、稽古を抜け出し碁四郎と稽古場の外で話し始めた。
その話は直ぐに終わり、兵庫も碁四郎も稽古に加わった所に、稽古支度を整えた佐伯文吾が駈け込んで来た。
それを見て、兵庫は一旦稽古を止めた。
「本日より稽古に加わります佐伯殿です。かなりの腕前ですので紹介します。」
「佐伯です。宜しくお願い致します」
「師範代の皆さん、稽古相手をして下さい」
「その前に兵さん、悪いが用が在って戻らねばならぬので、久しぶりに三本勝負頼めますか」
「そう云えば、暫くやって居ませんでしたね。やりますか」
この道場の双璧である兵庫と碁四郎の手合わせは滅多に見られない。広い庭道場に二人が立つと他の者は皆見物に回った。
その勝負は兵庫、碁四郎、碁四郎と勝ちを取った。
「やっと勝てた」と碁四郎が喜んだ。
これまでに三本勝負で兵庫から勝ちを得たものは居ないのだから、喜ぶのは当然だったが、この勝負に首をかしげたのが少し遅れて駒形からやって来た奥村弥太郎だった。
「さ~、皆稽古を始めて下さい」と兵庫がいうと、子供たちも加わり稽古が始められた。
何時もなら子供たちと稽古をする奥村が兵庫の所にやって来た。
奥村の目は誤魔化せなかったと兵庫は思った。
「奥村先生、父上から佐伯に気を付けろと言われましたので、籠手に隙が在ることを見せたのです」と小声で言った。
「そう云うことか、先日会ったがわしも佐伯が好きになれなかった。それにしても奴にわざわざ狙われるのか」
「狙われるとすれば、私、碁四郎さん、奥村先生ですよ。斬ってもあとくされの少ない浪人並ですからね。先ず私が佐伯の的に成りますので、間違っても佐伯との稽古で負けないで下さい」
「それは、やってみなければ分からぬが、菅原といい勝負をしているから気を引き締めぬと取りこぼすかもしれぬな。その時は夜歩きをせぬようにするよ」
「そうですね、私は夜歩きをしないと決着が遅くなりますね」
「ところで、斬りかかられたら斬るつもりか」
「それは何んとも、しかし五日の晩の夜、出歩く用があります。その時は刃挽きで相手をするつもりです」
「その様な物を持って居るのか」
「私は奉行所与力の家の出ですから、手助けをすることも在るのです」
「なるほど。斬らずに不具者にするつもりか」
「私を襲うなら、気の毒ですが全力で戦い打ち負かすことに専念します」
「遠慮していてはわしの様に手傷を負うからな」
「先生とは事情が違いますが、不意打ちから始まるか、堂々の勝負かでこちらの余裕も大きく変わりますから、刃挽きとは言え修羅場に成りかねません。言えることは勝たねばならぬと云うことです」

 この後、奥村は稽古に加わり、挑んできた佐伯を容赦なく打ち負かし、駒形へ戻って行った。

Posted on 2015/04/17 Fri. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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