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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第96話 鬼の居ぬ間に(その2)】 

 志津と挨拶を交わし終えた子どもたちが面を被り次々と道場にやって来た。
養育所の子が十五人と村上茂三郎の倅となった象二郎の総勢十六人が剣術方の兵庫、碁四郎、坂崎、根津、近藤、さらに保安方の常吉、乙次郎、鬼吉に順に打ち掛かり、兵庫の掛け声で相手を変えていった。 子供たちとの稽古が一巡したところで兵庫は稽古を止め、北村徳三郎に歩み寄った。
「何か用事でしょうか」
「中川殿と話をしていたらとんでもないことが分かったのだ」
「話が長くなりそうですね。部屋にてお聞きいたします」

 兵庫は北村を子供たちが通った飛び石伝いに自室の縁側まで案内していった。
部屋の中に居た志津と佐和が話を止めた。
「どうぞお上がりください」と兵庫が促した。
北村は主人より先に上がるのはと思ったのか、ためらいを見せたが、兵庫が草鞋(わらじ)を履いて居るのを見て納得したのか一段高くなった踏み石に草履(ぞうり)を脱ぎ、上がり志津に軽く会釈し部屋に入った。

 防具を外し、草鞋を脱いだ兵庫も上がり、兵庫、志津夫妻と北村徳三郎、佐和夫妻が対座した。
「それでは、とんでもないこととは何ですか」と兵庫が尋ねた。
「そのことだったな。先ず一つ目は北村の家から来た者の内、使用人だった友蔵とおたきは養育所に雇われ賃金を支払われているので、わしは二人の主人ではなくなっていたことに気が付いたことだ」
「はい、その通りです。栄殿が二人を連れて来て託されましたので受け入れ、友蔵さんには庭番方の仕事を、おたき殿には賄いの仕事をお願いし、養育所から賃金を払うことにしました」
「そう、同じことを中川殿も申された。そこでわしと佐和を養う金は誰が出すことに成るのか、中川殿に正直に応えて貰ったら、それは招き入れた者が払うのが世の習わしですとのことであった。そこで恐る恐る、友蔵やおたきの手当てが日に一朱と聞いているが、この屋敷を預かる中川殿は・・と尋ねた。返事は一朱だった。養育所で働く者は、上は鐘巻殿から下はおたきまで皆、一朱で働くことになっている、だったよ」
「そうです。養育所で働く方々がもし他所で働いたらその多くが一朱の賃金は頂けないでしょう。そういう方にとっては有り難い話かもしれませんが、養育所で働ける期間はせいぜい一年でそのことは云い渡している方もいます。独立に備え一朱の金を貯えさせるためと、こちらの金が長くは続かないと思えたからです」
「そうだ、わしらも中川殿に長く世話に成り続けられぬと思い、潰しの利かぬ浪人の仕事が養育所に在るか尋ねた。在るから鐘巻先生に相談して下さいの返事だった。そこで仕事をさせて貰いたくて、佐和と参ったのだ」
「それは有り難いことです。佐和様は何か仕事が決まりましたか」
「はい、暫く十軒店の店番をさせて頂くことに成りました」
「それでは北村殿には養育所のことを知って頂くために二・三日私と行動を共にして下さい。養育所に不足していることを探し出し、お願いすることになるでしょう。今日は朝飯を食べに戻って頂きますが、明日からはお二人とも三食こちらで食べて下さい」
「早朝から押しかけたにも関わらず、ご厚情を頂きお礼の言葉が見つかりません。あとは老体にむち打ち報いたいと存じます」
「賃金の支払いは月末に成りますが、入り用でしたら一両まででしたら用立てますが」
「それは結構です。あの日倅は小判を両替に馴染みの銭屋に行った帰りだったのです。懐から銭刺しが出て来たのを受け取っています」
「分かりました。何か必要なものが在る時は十軒店に相談して下さい。仕入れ値で分けることに成って居ますので」
「それは有り難いです。外に出ることも多くなりそうですから、買うとしたら下駄かも知れぬな」
「未だはける下駄が在りますよ」と佐和が言った。
和んだ会話を最後に二人は帰って行った。

 二人を見送り部屋に戻ると志津が
「今日は、北村様と歩かれるのですか」
「はい、そのつもりです。取りあえず養育所の広がりを見て頂こうと、思って居るのですが空模様が・・」
「日中は何とか持ちそうな気もしますので、夕飯までに終わらせお戻りください」
「赤坂から鎧櫃を担いで来た足ですから、それも可能ですね」

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Posted on 2017/03/21 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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