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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第97話 前へ(その12)】 

 彦四郎屋敷までやって来た兵庫が
「見た目は立派な屋敷なのですがね」
「特に門は、古いですが、どこから持って来たのか立派な造りですよ」
門内に入った兵庫は門脇の侍長屋それに続く長屋に成り損ねた屋根付き塀を彦次郎、佐吉と確かめていった。
「ひどいことをするもんですね」
「それでも少し切り残しがあり、柱がつながっているのが救いですよ」
「救いと云えば、長屋に成り損ねた屋根付き塀が、長物の置き場に出来そうですね」
「そうですね。それも柱を直してからでないと、長物を柱にぶつけて屋根を落とす恐れがあります」

 兵庫は表門、裏門の侍長屋を見て回った後、庭番頭の仁吉に、駒形から、ここに米俵を運ぶのでと頼み、大八車と人足として万吉を貸して貰った。
 米は、異国船来航が在ることを事前に知って居た兵庫が、諸物価の値上がる事を危惧し、当時の養育所で暮らす者の一年分の米として六十石、それは米俵で百五十俵で、押上に百俵、駒形に五十俵備蓄したのだ。
米の備蓄は食べることに苦労してきた浮浪上がりの子供たちを心の荒みから解放した。食べることに使った注力を己を高めることに励むようになったのだ。
しかし故在って駒形の養育所を閉じ、子供たちが中之郷元町の彦四郎屋敷に移ったため、大きな米の過不足が生じていたのだ。
子供たちの目から米俵が消えるのは良くないと感じた兵庫が己自身の力で出来ることを始めたのだ。
 駒形道場の中、衝立障子に囲まれ備蓄されていた米俵を大八車に積み、彦四郎屋敷との間を何度も往復した。最後の荷を積み終えた兵庫が、内藤に、
「これで駒形の備蓄米の三分の二を彦四郎屋敷に移動させ終わります。ひと月後減った分を補充するように言っておきますので、手配をお願いします」
「分かりました」
「これから戻って、午後は彦四郎屋敷で向島に移す植木を抜く仕事をします。何か生じたら、そちらへ知らせを寄越して下さい」
 そこに二階から為吉が下りて来た。
「先生、道場の二階から母屋の二階への引っ越しを済ませました」
「早かったですね」
「重いのは継志堂の皆さんや建具屋の建吉さんに手伝って頂きました」
「建吉さん、道場に居ませんでしたね」
「建吉さんは山内様が出た長屋の後に移りました。それと道場移築で手が空いたので、先日お話の合った肖像画を飾る額、小型衝立の試作をお願いしています」
「小型衝立ですか」
「位牌を造ったことも在るので、お安い御用だと云って居ました」
「為吉さん、お客には位牌は禁句ですよ」
「分かって居ますよ。白木のままとか黒漆は使わないように頼んであります」
「千丸の絵は衝立仕上げにして貰いますので、楽しみにしていると伝えて下さい」

 彦四郎屋敷に最後の米俵を運び終えた兵庫は、槌音のする侍長屋に回った。
そこでは彦次郎が別に用意した柱に刻みを入れていた。
「柱の下側を交換ですね」
「中間(ちゅうげん)の奴(やっこ)さん、腰を下ろして柱を切ったので交換する柱が短くて助かります」
「家の縁の下の支え柱の下部が腐ったりした時にも、この接ぎ方を覚えれば使えそうですね」
「はい、古い神社仏閣の柱の地面に近い部位は結構痛んでいますから、修繕する技は有用です」
「粟吉さんのご指導お願い致します」
「あの方は、真面目で貪欲で、覚えも良い。大工で食っていける人ですよ」
「有難いお言葉です」
「先生、立てた杭の影が北に落ちています。飯です。奥に居る佐吉さんを呼んで下さい」
「分かりました」と兵庫が侍長屋を離れ奥へ向かうと、その先から佐吉がやって来た。
 兵庫、彦次郎、佐吉が業平橋を渡ると、背後から正午を知らせる浅草寺の鐘の音が聞こえて来た。

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Posted on 2017/04/18 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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