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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第97話 前へ(その14)】 

 彦四郎屋敷を出た兵庫と子供たちが大八に移植する植木を積み、移植先の向島に向かう途中、押上の十軒店の見える所までやって来ると、子供が一人駆け寄って来るのが見えた。
赤松又四郎だった。
「先生」
「仕事は済ませたか」
「はい」
大声での会話が交換しながら、大八車を牽く兵庫の脇までやって来た又四郎が立ち止まり、向きを変えて歩き出した。
「先生、遅いですよ」
「お前が早いのだ」
「私は三枚で良かった千賀さんの下絵を四枚描きました。それでも待たされたのですから先生が遅いのです」
「う~~む。それが又四郎の道理か。又四郎、茶店で休んでいたのだから、観太の代わりに橋を渡るまで鍬を担ぎなさい」
「はい」と嬉しそうに返事をした又四郎が最後方の観太に駆け寄り、鍬を担がせて貰った。
「重いですね」
「橋までだ。頑張れ」
又四郎と観太の話声を聞いた兵庫は、大八を牽く足を速めた。
少しずつ遅れて行く又四郎が
「先生、もう少し遅く歩いて下さい」
「あれ?遅く歩いた方が良いのか」
「はい、もう待つ人は居ませんから」
「そうだったな」と、兵庫は歩む速度を元に戻した。

 向島に着いた兵庫は、村上茂三郎に彦四郎屋敷でのことを話し、後を任せた。
兵庫自身は彦四郎屋敷から村上屋敷に移植する植木を運ぶため、屋敷間を往復することにしたのだ。
その往復の度に、兵庫が一人で植木を積んだ、あるいは空の大八車牽いて通るのを茶店で番をする常吉がみた。そして養育所の中に入った常吉は根津甚八郎に事情を話し、頼んだ。
「私と乙次郎で植木運びの手伝いに行きたいので、根津先生、後のことをお願いできませんか」
「分かりました。私と近藤さんで引き受けますので、先生の方はお願いします」
 部屋に戻り大刀を持った甚八郎は、十軒店の学問所の外から、
「近藤先生、保安方二人が用で離れました」と告げた
「分かりました」の返事が戻って来た。

 押上の養育所は本丸であるが男が少ない、孤立した女の館でもあり、出来心の芽を摘むためにも警護の厳しさは常日頃から見せておかねばならない。その常日頃の警備を担うのが保安方なのだが、その保安方が持ち場を離れることはしばしば生じる。その時はその任を剣術方に託すことになる。

 押上の大八車を牽き出した保安方の常吉と乙次郎が彦四郎屋敷にむかうのを見送った甚八郎は十軒店の端から端までを何度か往復すると、店の者にも保安方の留守が伝わり自衛の意識高めることになるのだ。その顔つきの微妙な変化を甚八郎が感じ取ると、足は茶店に向き、釣竿に魚籠を持って出て来た。十軒店の前は北十間川でハゼがよく釣れるのだ。
 甚八郎は川縁に腰を下ろすと竿を垂れ自然に同化していった。

 一方、常吉と乙次郎の二人を助っ人に加えた植木移植の仕事は捗った。彦次郎が縄張りした家が建つ四間四方の内側に植えられて居たものは今日中に抜く目途が立っていた。
「難敵はあの柿の木だな」と佐吉が言った。
その木は三寸ほどの幹径で兵庫が子供たちに鍬使いを教えるため、周りを掘ったものだった。移築する家からは少し離れているのだが、枝が移築する家の敷地まで伸びていたのだ。その枝や他の枝も実を取り、移植のために既に切られていた。
「子供たちが甘いと云って喜んで食べていた。まだ若い木だから枯らさない様に植え替えてやらねば・・・」と佐吉が呟いた。
「柿の木は明日に回しましょう」
兵庫の提案で、既に抜かれた物は大八車に積まれ、仕掛かって居たものは抜き取り作業を急いだ。
こうして彦四郎屋敷から今日最後の大八車二台が出たのは七つの鐘がなった後だった。
また、養育所の子たちは決まり通り、鐘の音で向島を出て志津に挨拶するため押上の養育所に向かって居た。
 子供たちと兵庫等がすれ違うことに成ったのは養育所だった。志津と挨拶を済ませた子供たちが、兵庫等がやって来るのを待って居たからだった。
「待って居てくれたのか」
「根津先生がもうすぐ兄上か来られるから待って居なさいと・・・何か在るのですか」

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Posted on 2017/04/20 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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