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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その47)】 

 捕らえた十三人とやって来た久蔵親子の朝飯が足らなくなるのは分かって居たから、明け方、河岸に買い出しに行く中西肝太郎が立ち寄った時追加注文を出してあった。
その事を、押し込みを避けるための疎開先から戻って来たお雪や賄いの女たちは、内藤から、内緒ですよと口止めされたうえで聞かされた。
「荒くれさんが十五人も増えたのではご飯が足らないわ。二升足して五升釜を使いましょう」と大釜をつかってきたお糸が言った。
実はこの日用意していたのは、元東都組十人、継志堂六人、内藤夫妻、新吉・お糸夫妻・経師屋為吉、裏店暮らしの建具屋の建吉と大工の亀吉、子供預かり所を利用している三家族七人、計三十人分として三升だった。
この他に前日の残り飯が在るので、兵庫、常吉、村上、乙次郎らが残っても何とか足りるとの読みだった、
しかし、捕らえた賊にまで温かい飯を炊いて食べさせるとは思って居なかった。
この日の賄い女はお糸、お雪と子供預かり所で雇っているお岸とお定の四人だったが、段取りが大きく変わった事に文句を言う者は居ない。むしろ兵庫の優しさに応えようと働いた。
そして出来上がった。
しかし、五十人近くの者が集まり食べる場所も無ければ、また荒くれたちと女子供が一緒に食べるのも避けたかった。好き嫌いの問題ではなく外部に間違った話が伝わるのを恐れたからだ。
結局食事の場所は道場、継志堂、経師屋の帳場、そして台所の四か所に設けられた。
子供が多く居る養育所では配膳に子供たちが活躍するが、駒形から子供たちの姿が消え、道場の解体が始まると、隣の継志堂への配膳には岡持を使い、大人がまとめて部屋まで運びそこで配膳するようになり始めた。道場が使えなくなった時の対応は出来ていた。
継志堂の者たちが、昨晩やって来て捕らえられた者たちに岡持を使い朝飯を運んだのだ。
その中には、賊と食事をする兵庫、坂崎、乙次郎の分もあった。

 その食事の席で、
「入谷に行き繁蔵さんに会って戻って参りました。先ず、皆さんを解放するときに渡すと約束しました一人五両の金は何とか手に入れました。ただ、町の目が在りますので、解放時期は少し遅れます」
「本当に繁蔵に会って来たのか。それと少し遅れるとはどのぐらいだ」
「お疑いご尤もです。繁蔵さんに会った証はこの刀です。島吉さん、圭次さん、空太さん、見覚え在りませんか」と入谷から持ち帰った刀を刀持ちの様に立てて見せた。
「間違いない。それは繁蔵親分の物だ。その刀だけでも売れば一人五両の金は出る」と島吉が言った。
「それでは他のことは、急な来客が在ったと云い用意させた朝飯を食べながら話します。五升炊きの釜で炊いたものを五十人ほどで分けましたので皆さまには少々足りないでしょう。出来ればよく噛んで顎を疲れさす要領で食べて下さい」
兵庫が食べ始めると遠慮ない男たちも食べ始めた。
「皆様の解放時期は、吾妻橋を渡り浅草側の役人の目が届かなくなった所で、早ければ今日の夜に成ります。それまでは窓から顔を出すことをせずに待って居て下さい」
 そして、朝飯が終わった。
「私は、これから入谷の家を引き取りに、そして繁蔵さんを迎えに行って来ます。直ぐに戻ってきます。乙次郎さん、常吉さんと代わり付き合って下さい。坂崎さん、戻ったら御役目を変わりますのでお待ちください」
「常吉さんから、どのような段取りがされたのか聞いておきます」
「そうして下さい」

 兵庫と乙次郎が経師屋の帳場に戻ると内藤の脇に竜三郎が座って居て、表座敷には残りの元東都組の者たちが控えていた。
「皆さん、竜三郎さんには入谷の家に入って頂き、あの家に浸みこんだ悪いものを拭い去って頂きます。大変だと思いますが頑張って頂きたいです。他に聞いたかもしれませんが神明町の家は今朝、鬼吉さんにお願いしました。もし皆さんも養育所で働きたいとお思いでしたら、礼儀と忍耐を身に付けて下さい。そのお手伝いはしますよ」
「心配するな。私は乞食同然の浪人でした。常吉さん、乙次郎さん、鬼吉さんも皆、礼儀も知らない、ならず者でした。浮浪だった子供たちも、今では読み書きができるように成って居ます。やる気を失わずにやれば出来るように導いてくれますよ。ここは養育所ですからね」内藤が励ました。

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Posted on 2017/06/18 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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