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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その48)】 

 兵庫、乙次郎、竜三郎が入谷の繁蔵宅に行くと、繁蔵が外に出て女を送り出す所だった。
その女、今朝眠りの邪魔をした兵庫を覚えていたのかやって来て
「お世話に成りました」と頭を下げた。
「これからが大変です。頑張って下さい。もし手に負えないことが在りましたら、ここの新しい主に成ります竜三郎に相談して下さい」
「有り難うございます。繁蔵さんのこともお願い致します」
「そのつもりで参りました」
女は再度繁蔵に頭を下げ去って行った。

 家に入るや、繁蔵が
「城明け渡しの相手が竜三郎さんとは、鐘巻様も考えましたな」
「この洒落を知る人は町には居ませんので、町の者に受け入れられるまでになるのは大変です。それが竜三郎さんの修行です」
「修行と云われても何をしたらよいのか」
「とにかく町内を歩き回ることで顔を覚えて貰い、どんな些細なことでも構いませんので、人様の役に立つことを、対価を求めずにすることです。先ずは家の前の掃除は欠かさずに、道が荒れたら普請をしたら如何ですか」
「しかし、仕事をしなくては干上がってしまいます。かと言って手に職は在りませ・・・」
「信用されれば仕事は幾らでも在ります。内藤さんは板橋に居た頃は商家の暖簾を潜っては“何か御用は御座いませんか”と聞いて回って居たのです。その代金は相手の言い値でした。肥を担いだことも在ったそうですが信用が付くと歩合の良い仕事にも在り付けたそうです。その欲が無く、勤勉な事を知って居たので、養育所を開く時に発起人の一人に成って頂いたのです」
「分かりました。早速家の前掃除から始めます。繁蔵さん、箒は何処ですか」
「おとき、用が有ります。来て下さい」
 奥から女がやって来た。
「旦那様、御用とは何でしょうか」
「私は、この家を出ることに成り、こちらの竜三郎さんが代わりに入ることに成りましたのでもう旦那様ではなくなりました。急なことで申し訳ありませんが、お前のためにここに五両用意しました。これで勘弁して下さい」
おときは、急に暇を出され困惑した様子を見せた。
「おときさん、確か賄いの仕事をされて居るとおっしゃいましたね。ここで続けて働く気が在れば雇いますが如何ですか」
「お願いします。行く所が無いものですから」
「それでは養育所で雇います。賄い以外にも竜三郎の手助けをしてもらいます。食事、寝床付きで日当たり一朱支払います。それで宜しいですか」
「一朱、そんなに、お願いします。一生懸命働きます」
「竜三郎さんも同じ条件で雇います。必要な物資を買う金と二人の賃金は内藤さんから受け取って下さい。仕事は町の信頼を得ることです」
「分かりました」
「それでは、私たちは繁蔵さんと駒形に戻ります。それと落ち着いたらおときさんを駒形の内藤さんの所に寄越して下さい。つながりを持って頂きますので」
「分かりました」

 兵庫と乙次郎が繁蔵を連れ駒形に戻ると帳場では元宮大工の彦次郎が待って居た。
「先生、道場の解体を始めたいのですが、構いませんか」
「昨夜やって来ました十三人を今日中に本所側へ移動させますので、明日からにして下さい。解体の作業については元東都組の者たちが手伝ってくれることに成って居ます」
「それは助かります。屋根職人の久米吉さんに声を掛けておきます」
「お願いします」
彦次郎が出て行くと、内藤が
「久蔵さんは継志堂ですが呼びますか」
「いや、こちらが行きますが、預かり所の子供たちはどこに居ますか」
「もう道場には居ません。寺に遊びに行きました」
「それでは十三人に渡す約束の六十五両を出して下さい。継志堂には裏から回ります」
「そうですね、そろそろ岡っ引きの勇三さんが巡回をしてくる頃でしょうから、見慣れぬ顔は見せない方が良いでしょう」と云いながら、用意してあった六十五両を兵庫に渡した。
「勇三さんには、ここに居ることが分かって居る元東都組の者だけを見せることにしましょう」
「はい。何事も無かったように振る舞って貰います」
と云う事で、二階に居る元東都組の者が何人か帳場に呼ばれ、昨夜の出来事を奉行所に漏れない様に指示が出された。

 継志堂に移った兵庫と乙次郎は、昨夜から寝ずに居た坂崎に
「長い間、有り難うございました。この様に繁蔵殿も連れて来られましたので、お役を解きます。中之郷にお戻りください」
「それは有り難いが、鐘巻さんも少し休んだ方が良いぞ」
「はい、そうします」

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Posted on 2017/06/19 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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06/19 04:55 | edit

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