09 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.» 11

洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カレンダー

【鐘巻兵庫 第99話 標的(その44)】 

 兵庫の声を聞きつけた常吉が茶店から出てみると、駆けて来る兵庫の後ろに白刃をきらめかせ追って来る侍たちを見て、女房のお仙に「根津様を」と告げ己は木刀を持って乙次郎と十軒店から飛び出して来た。
「先生!」と逃げて来る兵庫に声を掛けた。
「川向こうの男を捕らえに行って下さ」と言いつつ、追って来た先頭の男に懐からとりだした石を投げつけた。この石は玉三郎から“狙われている”と教えられた時、酔った振りをしてわざと転び拾ったものだった。小さな石だったが頬を掠ったため侍は勢いを減じてとまった。その間に兵庫は抜刀し、更に斬りつけた。
男の額から血が流れ出た。
そして、一番後ろの男が悲鳴を上げた。
坂崎に後頭部を棟打ちされ、振り返った所を今度は額を斬りつけられ血を流したのだ。
「手加減したのはお判りでしょう。このまま続ければ大事な筋を斬られ不自由な体に成ってしまいますよ」
そこに足を引きずりやって来たのが中川彦四郎と矢五郎で、兵庫の後ろには押っ取り刀で出て来た根津甚八郎と近藤小六が立った。
「もうこれ以上争うのは止めましょう」と云い、兵庫は刀を手拭いで拭い鞘に納めた。坂崎もこれに倣った。
これで浪人たちも刀を納めた。
「傷の手当てを致しますので茶店に入って下さい」
二人の傷は兵庫と坂崎により縫い合わされ、薬を塗られ、包帯をされ終わった。
その手際の良さが、二人の厳しい戦歴でもあった。
そして常吉と乙次郎そして弥一が追っていた男が連れて来られた。
その男は草加宿の千疋屋十兵衛だった。
「五人のお方は、こちらのお方に私を襲った訳を聞いたうえで解き放ちます。それまで両刀を預からせて頂きます。尚調べは移築が終わった中之郷元町の道場で行いますので、そこで待って居て下さい。私は遅れて居る夕ご飯を食べてから出向きます。皆さん方も食事が未だでしたら、飯屋で食べてから行って下さい。私のおごりです」

 広間では、女の子たちが待って居た。男の子たちはこの日の夕食から向島で食べることに成り、その姿は無かった。女の子の数も千夏とかえでが賄いで向島に移ったため少なく成って居た。
「待たせてすみませんでした。道場の移築が終わったので見て来て遅れました。それでは頂きます」

 食事を済ませ、部屋に戻った兵庫の顔は優れなかった。
「表で何か在ったようですが・・・」
「五人の浪人に私が襲われました。頼んだのは草加宿の千疋屋十兵衛さんのようです」
「分かりませんね。何の得が有るのでしょうか」
「私も、興味が在りますので、これから中之郷まで行って来ます」

 中之郷の屋敷内に移築された道場には明かりが灯され、その灯りは周囲の障子を照らし、北側に南向きに座らされた六人の影を薄くしていた。
その道場東側と西側には中川矢五郎、坂崎新之丞、根津甚八郎、近藤小六、常吉、乙次郎が分かれて座って居た。
そこに兵庫、急遽呼ばれた山中碁四郎、内藤虎之助、そして中川彦四郎が入って来て空いて居る南側に座った。
「草加宿の千疋屋十兵衛殿とお見受けいたしますが、ご本人に相違ございませんか」
「間違い御座いません」
「それではこれから色々とお尋ねしますが、隠さずにお話しいただきたい。黙秘は出来ません。脅すわけではありませんがここには元奉行所勤めの者が居ると云う事を忘れずに正直に話して頂きたい」
「分かりました」
「それでは、人を頼み私を襲わせた、その狙いは何でしょうか」
「草加宿で埋もれたくはなく、浅草に一家を開こうと思ったためです。他に何千両あるかもわからない養育所の隠し金を奪えれば、そのためには邪魔なのが鐘巻様だからです」
「どうしてそのようなことを思いついたのですか。誰かの知恵ですか」
「知恵を借りたと言えば借りましたが、その者たちとは一切の相談をしていません。類が及んでは申し訳ないのでその者の名は申し上げられません」
「分かりました。無理には伺いませんが此度のことを子分衆は知って居ますか」
「鐘巻様の名は出してはいませんが、人を殺めるための人集めをさせましたので、物騒なことをすることは知って居ます」

 ←ボタンを押して頂ければ励みになります。

Posted on 2017/08/11 Fri. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

この記事に対するコメント

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://tokinotsuribito.blog79.fc2.com/tb.php/3225-6560ea03
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)