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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第100話 共喰い(その32)】 

 新門一家の者たちが、こうなることは予測の範囲内だったのだろう、用意して来た戸板に二人の遺骸を乗せ、事件現場に残された使用された脇差、鳶口そして惨劇を燃え上がって照らした提灯を片付け戻っていった。
 事件を聞きつけやって来た岡っ引きもただ見送る事しか出来なかった。
兵庫は押上から来た者、中之郷元町から来た者を事件の場から少し離れた所に集めた。
「信じられないでしょうが、戸板に乗った仏は一人は孫三郎ですが、もう一人は新門辰五郎ではなく孫三郎の父・政五郎と云うものです」と新門と政五郎が入れ替わったことを知らなかった者たちに伝えた。
「とんだどんでん返しだったな」と矢五郎が呟いた。
「これで物騒な話はお終いでしょう。ご苦労様でした」

 押上に戻る途中、
「常吉さん、乙次郎さんの明日の引っ越し準備は進んでいますか」
「はい、飯屋をお仙が引き受けましたので、夫婦そろって明日引っ越しの予定です」
「それは良かった。明日は出来るだけ手つだって上げましょう」

 押上に戻ると、部屋に政五郎が持って来た瓢箪と杯が文机の上に置かれていた。
「親子のお二人は亡くなりましたか」
「はい」
「新門様は何ともありませんでしたか」
「はい、何か在るとでも思われたのですか」
「はい、あの瓢(ふくべ)の中は水ではなく毒でしたよ。新門殿は判って居て飲まれたのは旦那様の前で義兄弟の美しい所を演じ通し、醜態は見せたくなかったのでしょう」
「義兄弟の間には最後まで確執が残っていたと云う事でしたか」
「これまで孫三郎の悪行を見て見ぬ振りをしながら、旦那様からの書状を邪魔な政五郎さんに突き付け死んでもらうことで共喰いを避けたのだと私は思います。これで新門には、さん付けで呼び遠慮すべき身内は居なくなったのです。益々、強くなると思いますよ。生きて居れば・・・」
「死なれては、浅草が乱れますので困ります」
 兵庫は文机に歩み寄り、瓢箪を取り中の水を少し杯に垂らし、舐めてみた。
かなり苦みが舌に残った。
「確かに、これは薬か毒ですね」
「考えてみれば、やくざ者同士の共喰いは全て、新門の掌の上で起こったと云う事ですね」
「そうかもしれませんが、新門は気の毒なことに共喰いの皿の上から下りられなくなって居ますね」
「下りられないのも事実でしょうが、頼んでも下りてはくれないでしょう。居心地が良いのか、好きなのか・・」
二人が共喰いの皿に乗っている新門辰五郎の話をしている頃、家に戻った新門は飲まされた毒が効いて来たのか苦しみに襲われ始めた。
その事を知る由もない二人は、やがて惨たらしい話しを止め千丸の寝顔に見入った。
話題は楽しいものへと変わっていった。

第100話 共喰い 完

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Posted on 2017/09/14 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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