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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第102話 ほとぼり(その14)】 

 朝、新門の家を見張る時には遠回りして北側から馬道に入ったが、夜は浅草寺の脇を通り南側から馬道に入った。
間もなく木戸が閉まる四つの鐘が鳴る頃だが、それでも人影は絶えないのは、ぶら下げた提灯の明かりは無用とばかり町明かりが灯り、更には十三日の丸い月も高く昇り道を照らし、夜更けを遅らせていたからだろうか。
 だが兵庫等一行六人の歩みは、月を愛でる様子も見せず、速足の勢いが、風流人に道を譲らせた。
 一行が寒いのに開け放たれている新門の“を組”の会所前まで来て止まると、既に新門が土間に下り待って居た。それは浅草から遠のいて居た新門の目が戻って来たから出来たことだった
「皆様、何か御用でしょうか」が新門辰五郎の第一声だった。
「実は志津が胸騒ぎがすると申しますので、こちらで将棋を指し、碁を打ちに参ったのですが、ご覧の様に湯屋は閉め切っています。もし、宜しければ部屋をお貸しいただけませんか」
「私も囲碁将棋が好きで、よく湯屋の二階で遊びに行くのですが、人様に迷惑をおかけするのはと思い、このところは我慢して居たのです。どうぞお上がりください」

 中に入った六人は、張り替えられ、あるいは新調された障子、襖に囲まれた部屋に通された。
「ご覧の有様ですよ。これも身から出た錆ですから我慢しますが、死んだ六人には申し訳ないことをしたと思って居ます」
「今回の一件では、私どもも少し噛んでいるところがあり反省して居ます。これほどの大事になるとは思って居なかったのです。ご存知かもしれませんが、新門に雇われた者・十人が草加宿で狼藉を働いたため、これを力ずくで納め江戸に戻したのです。この時、十人に、こう成ったのは旨い話に乗せられた結果だと教えました。その恨みが辰五郎殿と鉄五郎殿に向かったようです」
「新門の名で良いこと悪いことが私の知らぬ所で行われています。皆さんが成されたことは草加宿の者たちに喜ばれたのですから、反省の必要はありませんよ」
「それはどうも、ところで此度の事件を引き起こした者の目星は突いて居るのですか」
「付いては居ますが、白を切られます。ですから証拠を集めます。相手はそれを邪魔をします。素直に裁きの場に座る者は居ません。逃げるか、死ぬか、殴り込んできます」
「殴り込みには応じられますか」
「相手が集められる人数は分かって居ます。それには対応できます」
「それを聞き、少し安心しました」
「少しですか」
「はい、少しです。相手には火付けの前科が在ります。もしどこかに囮の火でも付けられたら、ここは空になるのでしょ。空き巣狙いに入られますからね」
「鐘巻様、怖いことをお考えですね」
「相手の弱みを突くのが勝負の心得ですからね」
「囮の火付けとは気が付きませんでした。弱りましたね」
「火がつけられたら、いつものように動いて下さい。ここに残るものと私たちで動いてみます」
「兵さん、それでは駄目だ」
「駄目ですか?」
「相手の狙いは辰五郎さんだ。辰五郎さんにも火消衆に紛れてここを抜け出して貰った方が戦いやすい」
「だそうですが、それでお願いできますか」
「贅沢を言って申し訳ないのですが、私は皆様のお働きを近くで見たいのです。邪魔でしょうが、ここに残して下さい」
「構いませんよ。一つお願いがあります」
「何ですか」
「水を入れた手桶を出来るだけ多く置いておいて下さい。乾燥して居ますので、この家の外側で火が付きやすいところに水を掛けて下さい」
「分かった、火の用心を今からさせる」

 暫くして四つの鐘が鳴った。
当然のことだが木戸が閉められ、通行が制限される。
徒党を組んでこの木戸を抜けることは基本的に出来ない。そのため大勢で押し入るのなら事前に木戸内に身を秘める必要がある。またはその町の抜け道を知る必要がある。
 先日起きた十四人が死ぬ事件を起こした者たちはどのような手段で木戸内に入ったのかは不明である。

 時が経っていった。奥の部屋では、碁将棋が行われていた。
その部屋の燃えやすいもの、障子、襖は全て取り外されていた。普段は仮眠を取るのだが、新門が起きていては横に離れない、会所の表戸は閉め切られていないから、冷気が入って来る。今日に限って手あぶりも置かれていない。
「常吉さん、ここで蕎麦を打つ材料と道具が在るか確かめて下さい。出来そうなら、皆さんに温かい蕎麦を食べて頂きましょう」
「皆揃って居るよ。熱いのを頼む」と辰五郎が応えた。

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Posted on 2017/11/12 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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