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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第102話 ほとぼり(その16)】 

 一方、吉原の妓楼辺りが燃えて居ると云う事で火事場に向かった火消衆だが、近づくに従い、燃えたのは吉原遊郭の外であることが判り、北側へと回った。
そこは吉原田んぼで、どんど焼きを模した物が造られ燃えていたのだ。
いたずらと分かっても帰る訳にはいかないのが、火事と喧嘩は江戸の華と集まって来る野次馬とは違うところで、吉原が火事と多少の助兵衛根性を見せ諸所からやって来た火消たちは先ずは怒ったが火の始末をして戻っていった。
 “を組”の火消衆も早く戻らなければならない訳があったが、消火活動を済ませ、急ぎ馬道まで駆け戻って来た。
火消たちが会所に近づくとあの得もいわれぬ匂いに鼻をくすぐられた。飛び込むと、目に入ったのは外されていた襖や障子が元に戻されていた。
そして、奥からは笑い声が聞こえ、襖が開き新門が顔を見せた。
「ご苦労でした。早いところを見ると中(吉原の郭内)が燃えたのではなかったようだな」
「へい、誰かが田んぼに造ったちゃちなどんど焼きが燃えて居ました」
「悪い冗談だな。そいつ等も今は反省しているだろう」
「様子が変わっていますが、何か在りましたか」
「ああ、寿三郎以下十二人が押しかけて来たが、先生方にあしらわれ帰っていったよ。そこに置いてあるのが戦利品だ」
「奴ら、火消に化けて来たんですかい」
「あれ、寿三郎は火消ではないのですか」と兵庫が不思議そうに尋ねた。
「新門の配下の者が全て火消ではないのです。寿三郎は例えて言えば千住の鉄五郎のような者ですよ」
「そうでしたね。話しついでに成りますが、その千住の鉄五郎さんの跡はどう成りますか。先日、伺ったおりに奥様と会いましたが、考える余裕もなかったのか、店を閉じるような 感じでしたが」
「その件は話が長くなりますので、蕎麦を食った後にしましょう」
「そうでしたね」
「皆、上がれ」と新門が云い、火消衆が草鞋を脱ぎ始めた。

 蕎麦を啜る音が途絶える前に、
「先生方、少し今日の話を聞かせて頂けませんか」と誰かが云うと、同調するように周りの者が頷いた」
「私たちは皆さんの腕前を大よそですが分かって居ます。おそらく押し込んで来る相手も似たような者と思って居ます。一方私たちは皆が実戦を経験していてためらいは在りません。同数なら負けることはまずないわけです。今回は相手が十二人とこちらの倍でしたが、同時に殴り込むのは開けられている間口の関係から四人が限度ですが、今回は三人同時に踏み込んできました。こちらは家の中に三人、外に三人で挟み撃ちでした。先頭の三人が踏み込みほぼ同時に打撃を受け倒されると、次に踏み込む者は足場を失い、後ろから押されていました。先陣を切って踏み込んだ寿三郎さんを踏みつける訳にはいかず、気の毒でした。はっきり言えば寿三郎さん以外は押し込みたくなかったのではと思って居ます。私ら外の三人は後方の者を倒し、逃げ道を塞ぎ、無傷の者三人を残し屈服させたのです。何とも地味なものでした」
「何も入っていない蕎麦などと云うと、蕎麦に申し訳ない殴り込みでした。義理ゆえの気乗りのしない殴り込みの者たちを、皆さんも許してあげて下さい」
「それは許しますが、寿三郎はどうするんですか」男たちの目は新門を見ていた。
「どうするも、寿三郎も男だから、けじめは自らつけるだろうよ」
と応える新門に笑みは無く憂いが浮かんでいた。
殴り込みに対しては完全な勝利でかつ事件にせずに納められたのだが、本当に収まったのかに不安があった。
不安とは、田んぼに造った物に夜間に火を付けた者が居て、これに半鐘が打たれたことだった。これが火付けと判断されれば重罪である。
この火付けが兵庫が暗示したように殴り込みをかけた寿三郎の仕業だとすれば、いや露見すれば、新門にとっては一家の者が重罪を犯したことに成り、何らかの連座を受ける恐れが在ったからだ。
新門の様子は火消衆に伝播し、部屋中が重苦しくなった。
「心配するな。寿三郎は男だよ」と中川彦四郎が言った。

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Posted on 2017/11/14 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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