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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第105話 ぬくもり(その18)】 

 修行先を入谷に変えることに成った千夏と小夜を連れた兵庫は二人に道を覚えさせながら竜三郎の店までやって来た。
「あそこだよ」
「暖簾が出て居ませんね」
「今は手が足りなくて、朝、昼、晩の飯時だけ暖簾を出しています。ちかくの鬼子母神へお参りする人も居るので、商いを広げる余地は残っています。色んなことを試すのも面白いかもしれないね」
 戸を開けて中に入ると、板の間に置かれた火鉢を囲むようにして何人かの女の子が藁仕事をしていた。それを天道が帳場番と保安を兼ねて眺めていた。
「おや、可愛い娘さんですね」
と天道が云う前に、藁細工の手を休めた女の子たちの目が、千夏と小夜に注がれた。
「男の子は・・・」
「新藤と昇龍院の庭掃除に出かけました。と云うよりここに手は邪魔なので追い出されたと云った方がよいかもしれません。残りはここと台所です」
頷いた兵庫が奥に向けて、
「竜三郎さん、おときさん」と声を掛けた。
その声で中から呼ばれた二人と、手伝いをしていたのか女の子三人と志乃が出て来た。
「こちらの子供たちの勉学を優先させてもらうため、養育所では最も古参に成る娘をこちらで修行させます。名は千夏と小夜です」
「千夏で御座います。宜しくお願い致します」
「小夜で御座います。宜しくお願い致します」
挨拶をした二人は板の間の上に立つ女の子より若いが、立ち居振る舞いは垢ぬけていた。
自分たちとは何かが違う、それも好ましくだった。
それは先日、須磨の婚姻の席で見た、子供たちから母と呼ばれた美しい女・志津に似ていた。
実は女の子の多くが、婚姻が終わった後、女の子らしく花嫁の座に座って夢を見た。
更に座ったのが志津の座っていた座布団だった
「お母さん、温かい」と最初に座った女の子が洩らした。
その一言が、母のぬくもりを求める女の子を座らせた。
目の前に現れた千夏と小夜は、その母のぬくもりを思い出させたのだ。
こうして、千夏と小夜は母を求める女の子に挨拶を交わす間に受け入れられた。
「よく来てくれたね。助かるよ。お上がり」
「おときさん、お願いです」
「何ですか、先生」
「高田寺の昇龍院に養育所の庭師と宮大工の年寄り二人が暫く住み込みますので、その三食を出前して頂きたいのです」
「外に出られず、身を持て余している旦那が居るので任せて下さい」
「それと、勘八とわかめを今晩戻しますので支度をさせて下さい。荷物は勝太さんと夏吉さんが運びます」
「分かりました」
「天道さんに志乃さん。子供たちの手習い道具を今、昇龍院に運んでいますので、子供たちに渡して下さい」
「分かりました、お昼の用意は千夏さんと小夜さんに任せて、私たちも出かけましょう」
と、志乃が云うと、女の子たちは藁細工仕事を片付け、掃き集めた藁ごみを火鉢にくべ燃やした。

 千夏と小夜の荷を下ろした勝太と夏吉は兵庫に従い高田寺に向かった。
それに少し遅れて、女の子を連れた天道が歩いて居た。
 寺の門を潜り、昇龍院の庭に入ったが居るはずの男の子の姿が無かった。
それは家の中に居るということだった。
外に居ることが好きな男の子が家の中に居ると云う事は家の中に何かが在るということに他ならなかった。
「皆、自分の手習い道具を見て居るんだろう」と兵庫が言った。
急ぎ家に上がった女の子が見たものは兵庫の言ったことよりも、さらに喜びを顔に見せていた。
それは、与えられた新品の文机を糠袋で磨いて居る姿だった。
子供たちはこれまでに新品の品物を持ったことは無かった。
自分の物を持つ喜びに女の子も浸っていった。
その子供たちの喜びを見る大人たちの顔にも笑みが浮かんでいた。

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Posted on 2018/02/15 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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