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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第105話 ぬくもり(その23)】 

 屋敷の下見を済ませた太白と北村が兵庫と上がった縁側まで戻って来た。
そこには上がる時いた者たちは姿を消していた。
その代わりに、丸められた紙を持った又四郎が雲海和尚に連れられてやって来た。
「又四郎、もう描き終わったのか」
「はい、太白先生」
「いくら何でも早すぎないか」
「私も昇龍院を見たかったのです」
「手を抜いたのか」
「いいえ、その様なことは致しません」
太白は、確かめるように又四郎が持つ紙を見た。
「太白さん、温盛さんの絵は気に入りましたよ」と和尚は云った。
又四郎は持っていた紙を太白に渡した。
太白は丸められていた紙を広げた。
半紙判ほど紙には紛れもなく雲海和尚が描かれ、描き終わったことの証として温盛と雅号が記されていた。
「見事なものでしょう」と和尚が言った。
 太白から回されて来た紙には和尚の右目と眉、鼻筋と皺が描かれていたが、顔の輪郭が入らないほどに大きく描かれていたのだ。
「なるほど、この絵が軸となり掛けられて居たら、和尚を知る人なら、誰が描かれているかは判るでしょうね」
北村に渡った絵を取り戻そうと、和尚は用意して居たのか二朱を取り出すと北村に渡し、絵を受け取ると戻って行った。
この後、又四郎が見たかった屋敷内を再び巡り、兵庫等は高田寺を出、それぞれの住まいに戻った。

 嘉永六年十月二十七日(1853-11-27)、朝食を済ませた兵庫と志津は千丸を婆様に預け、高田寺に向かっていた。
又、中之郷元町の養育所では太白と又四郎たちの昇龍院への引っ越しが、弥一等により進められていた。
また、昇龍院では、彦次郎が手配した、屋根職人の久米吉、大工の新吉、亀吉、大工修行中の水野粟吉に建具修行中の水野賢太郎が集まり、弁天堂の屋根の修理が突貫で行わ始められた。 
昇龍院の庭では、庭仕事の心得の在る村上茂三郎も手伝いに来て伸び放題だった、高い所の枝の剪定が行われた。
入谷からやって来た子供たちは、昨日に引き続き仮名の読みが始められていた。
そこに、太白等の引っ越し荷物が付くと、学業が一時止められ、子供たち全員が手伝い奥の部屋に運ばれた。
そこに、駒形、入谷と寄り道をして来た兵庫と志津がやって来た。
子供たちは志津により従順だった。
「こどもの仕事は勉強ですよ。習いごとに戻りなさい」の言葉に従った。
そして昼少し前に子供たちは食事に戻った。
それと入れ替わるように、竜三郎が昼の弁当の入った岡持を両手に下げやってきた。
「竜三郎さん、無理なお願いして済みませんね。ここの台所も動かすようにしますからね」
「商いですから、客が居なくなる方が辛いですよ」といい。弁当を置くと急ぎ戻って行った。

 昼食後、子供たちが再びやって来る前に大人たちは動き始めた。
そして、子供たちがやって来ると、志津は子供たちを一部屋に集めた。
「皆さんは未だ、養育所の子供では在りません。ですから自由です。今日まで皆さんが養育所に馴染めるか様子を見てきました。皆さんは養育所に入っても立派にやっていけます。皆さんに聞きます。養育所に入り、更に勉強を続けたいと思う人は、今から庭の片付けを手伝いに行きなさい」
 子供たちに迷いはなかった。一人が立ち上がると皆がそれに従い庭に降りていった。
そして、午後も七つ近くに成り、大人も子供たちも仕事を終えた。

昇龍院の日の差し込む座敷に二十三人の子供たちが集められ、一人一人母代わりとなる志津に呼ばれていた。
浮浪時代と別れを告げるため、また忘れぬために、子供たちの爪と髪の一分が切られる儀式が行われた。
最後に志津の膝に頭を置き耳の掃除をして貰って終わるのだ。
ぎこちない母子の触れ合いは微笑ましく、子供たちが母の温かさを感じると、そのぬくもりが、子供たちを見る大人にも感じらるのか、大人たちの顔を優しくしていった。

第105話 ぬくもり 完

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Posted on 2018/02/20 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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