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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第109話 肥し(その22)】 

 駒形の養育所、薬研堀の子供預かり所、深川の子供預かり所、本所柳原町のやなぎやと巡り兵庫は押上に戻って来た。
 部屋に入ると志津が長紙に書きあげたものを広げ見ていた。
「何を書きましたか」
「はい、古今和歌集、春の巻から選んだ和歌を十首ですが、子供たちには教えていない漢字の他に万葉の仮名、加えて連綿ですから、歌を知らないと読めないかも知れませんね」
「謎の多いのが良いのです。好奇心が読めるようにしてくれますよ」
「それでは夏・秋・冬を書き上げておきます」
「恋は書かないのですか」
「書くのはよいのですが、好奇心旺盛な子に説明して頂けるのでしたら」
「勉強が足らないので私には無理です。調度屋の件で彦次郎さんに話があるので行って来ます」
「何ですか、調度屋とは」が「入谷に入った二十三人の子供たち用に彦次郎さんにお願いして作って貰った折り畳み式文机の評判が良いので、売ったらどうだと碁四郎さに今日言われたのです。それと深川では一枝殿から冷えた子供たちを温めるため炬燵櫓を頼まれました。更に、志津の書が衝立に仕立てられます。養育所の持つ建具、経師に書画の技能を生かした商いとして調度屋はどうか、何か問題が在るのか聞いて来ます」

 裏の長屋に彦次郎を尋ね、出て来た彦次郎にたった今、妻の志津に話した調度屋開業について、何か感じることは在るか尋ねた。
「調度となるとかさ張るので作った物を納めるまでの仕事場と置き場が必要です。これは中之郷元町に門脇の出来損ないの侍長屋が在るので良いのですが、品物を置く店をどうしますか」
「確かに、店を出すとなると人通りの多い駒形になりますね。今使って居る調度を売り物に置き換え見本として注文を取ると云のは如何でしょうか」
「内藤さんは売り物見本の中で暮らすわけですね」
「そう成りますが、使う事で品物の改善につながればですが、店が調度屋として知られるように成るには時を要すでしょうね。それまでは、車に見本を乗せて注文取りに回る考えですが」
「分かりました。造る方は売値を決めるための材料費と手間代を出すようにします」
「宜しくお願いします。ただ、思い付きの一面も在りますので、内藤さん、山中さんとこの思い付きをどこまで進めるか談合し、決めることにします」
「私の方は、先程伺いました炬燵櫓と預かり所の子供たちにも折り畳み文机が行き渡るよう作ることにします。これにはお預かりいたしました大工方修行を始めました総三郎と浜吉も手伝わせることに致します」
「二人が薪切りを卒業すると、そのお役をまた私が担うことに成りますが、私にも出来る仕事が在ることを楽しむことにします」

 兵庫が彦次郎との話を終えて母屋へ向かうと、広間の障子が開き女の子が出て来た。
広間では三十人ほど居る女の子に対する講義が行われていたのだ、
そして、兵庫からは見えないが別の部屋では向島から来ていた男の子たちへの講義が終わり、部屋からは向島から来ている男の子たちが姿を見せ、表へ出て行った。
そこには保安方の平田が控えていて、子供の人数を数えると、向島に向かって駆け去っていった。
そして、昼飯を告げる板木が打たれた。

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Posted on 2018/05/27 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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