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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第110話 お蔭参り(その1)】 

 嘉永六年十一月十七日(1853-12-17)、鐘巻兵庫は部屋の畳の上に広げられた四枚の長紙の書を眺めていた。
それは妻の志津が古今和歌集から選んだ春夏秋冬の和歌を書いたものだった。
志津の書は浅草茅町の版元須原屋の主・伊八から依頼が来るほどの達筆なのだ。
しかし、この書は売り物ではなく衝立に仕上げて部屋に置き、子供たちの目に晒すことで、文字に親しんで貰うのが目的だった。
子供たちとは、兵庫たちが開設した養育所で修行するようになった親に見放された子供たちのことである。

 兵庫が長紙を丁寧に丸め桐箱に納めていると、志津が
「そろそろ一年が経ちますね」と声を掛けて来た。
兵庫は返事に詰まったのか即答せず、しかし手を休めることなく四つの桐箱の蓋を閉めていた。
そして桐箱が風呂敷に包まれ、姿が見えなくなったところで兵庫は口を開いた。
「そうですね、養育所の子供たちにとっては大切な人・額賀殿の命日が近づいて居ますね。このことを知らない子供たちの方が多くなりました。皆に話して墓参りに連れて行きましょう。まず山中さんや内藤さんに告げ、段取りを決めることにします」
志津は兵庫の返事に満足したのか頷き、それ以上のことを聞くことなかった。

 兵庫と志津にとっては何の説明も要らないことだが、一年前の出来事について少し説明を付け加えよう。
 兵庫は在る出来事で得た金と情報を元に、貧しいがゆえに親に見放される子供たちを育てる養育所を開くことを、同僚の山中碁四郎と旧知の内藤虎之助の三人で奉行所に願い出た。
いろいろと起きたが、嘉永五年の暮れも押し詰まった頃に養育所の開設が認められた。
ただ願い出る時に求めた支援については一切受け入れられることは無かったため、養育所は駒形の兵庫の家を使い開かれた。

 それでは兵庫が養育所を開くことに成った出来事とはどのようなものだったのかを更に話そう。
これは額賀雅治を頭とする水戸藩の者たちが、国の貧しい者たちが子を捨てたり売ったりすることから子供たちを守るために子供を預かる養育所を開こうとした。
しかし、そのためには金が必要だが、藩をあてには出来なかった。そこで手段を選ばず、江戸の札差を拉致し身代金千両を要求し、その千両を手に入れた。
この拉致事件は拉致された札差が札差仲間に伝え同事件が起きないように注意した。
この情報で各札差は近辺に脅威が迫っているかを調べた。そして狙われていることを察知した札差が居て、この機会に賊を捕えようと相談し、その依頼が悪党退治で名を知られていた鐘巻兵庫にもたらされた。
もたらしたのは兵庫と因縁深い関係を持つ札差山倉屋だった。
賊を捕える方法は、山倉屋に化けてわざと拉致され、暴れるという、荒っぽいものだった。
その報酬は千両と云う大金だったが、その条件は賊が二度と拉致事件を起こさせなくするというものだった。また千両と云う大金は札差百家が十両ずつ出し合うというもので、札差にとっては受け入れやすいものだった。
 山中碁四郎を相棒にした兵庫は準備を整え、賊の見張りが有る日を選び、山倉屋に化けた兵庫は暗くなって駕籠に乗った。行先は襲われやすいように夜間人通りの少なくなる川向こうの押上の寮にした。
 案の定、駕籠は途中で襲われ、駕籠かきは逃げ、付け人は身代金千両を用意させるために解放され、兵庫の乗った駕籠は向島の廃屋にと運ばれた。
 そこで、兵庫の後をつけて来ていた山中碁四郎とが大暴れをして賊ら一味を観念させた。
頭目は額賀雅治と名乗り腹を切るというので、兵庫と碁四郎はこれまでに奪われていた千両箱二つを駕籠に乗せ、確かめずに廃屋を出た。
確かめずに出たのは、仲間が額賀を先生と呼んで居たことと、振る舞いが立派だったため静かに最後を迎えさせようとの温情が働いたからだった。
しかし、その温情が額賀に心変わりさせてしまっていた。(52話 身代わり)

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Posted on 2018/06/09 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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06/09 16:33 | edit

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