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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第110話 お蔭参り(その2)】 

 二千両積んだ駕籠を担ぎ廃屋を出た兵庫と碁四郎は、途中、山倉屋から来た男たちとすれ違った。
男たちは、山倉屋に化けた兵庫が拉致された時、山倉屋の身代金として千両を用意させるために解放された付け人の知らせを受け、山倉屋を飛び出した者で、かねてより探索しておいた廃屋へ向かう途中だった。
兵庫は男たちに、廃屋で侍たちが腹を切っていることを告げた。
そして拉致されなければ向かうことに成って居た山倉屋の寮に向かった。

 廃屋から寮に戻って来た山倉屋の者が兵庫等に伝えたことは思いもよらぬことだった。額賀らしい死体は無く、他の者たちは斬殺されていたとのことだったからだ。
 翌日、兵庫は水戸下屋敷の用人・塙数衛門を訪ね、水戸訛りの額賀雅治と云う者の罪状とその仲間が向島の廃屋に仮埋葬されていることを告げ、もし水戸藩と関係が在る者なら早く始末しないと騒ぎが明るみに出ることを伝えた。
塙の動きは早く、屋敷内に戻っていた額賀は子息とともに捕らえられ吟味され、数日後に斬首された。

 後に、額賀らが埋葬された円通寺の和尚・浮雲の話では額賀が不法に金集めをした訳が知らされた。それは国の貧しい者たちのために養育所を運営するためのものだった。
 手段は罪在るものだったが死んでいった額賀等の目的は立派なものだった。
兵庫と碁四郎はほとんど濡れ手で粟のごとく得た千両と、額賀の所から押収した二千両の内、引き取り手の無かった千両、合わせて二千両を手に入れたが、我が物にすることは出来なかった。
そこで額賀の意志を受け継ぎ、二千両を元手に養育所の開設を奉行所に願い出て認可を受けたのだ。
駒形に開いたのが継志館養育所だった。
このことは石だけが置かれた額賀の墓前にも報告された。
その命日が近づいて居たのだ。

 兵庫は志津との話を終えると改めて書き続けて来た日記、それも嘉永五年を開き、一年前に起きた事件の経緯を確かめた。
事件が起きたのが十一月二十二日で、額賀が斬首されたのは十一月二十八日だった。
 その事を確かめると兵庫は桐箱四つが入っている風呂敷包を持ち押上を出た。
暫くして経師屋為吉の暖簾が掛けられている駒形の養育所に入った。

 帳場には暖簾の主・為吉が居た。
「先生、内藤様は二階で子供たちに手習いを・・」
「分かりました、待ちます。為吉さんにお願いするため、志津が書いた書を持参しましたので仕立てをお願いします」
「拝見させて頂けますか」
「どうぞ」
為吉は渡された風呂敷包を解き、四つの桐箱を見、一つの桐箱を開け中身を取り出し広げた。
「これを奥様が・・子供たちの手習いのためにですか。良い値で売れる品物ですよ」
「知って居ます。茅町の版元須原屋の伊八さん依頼で写本作りの手伝いをして、私が飢えないように稼いでくれましたから」
「あの須原屋の仕事をしたのですか・・」
と為吉は己の目の確かさを知らされたことになり、気を良くした。
「衝立より、額に仕立てた方が良いですね」
「それで結構ですが、子供たちに見えやすくするために、目の高さに吊るせるようにもして下さい。それと売り物は客の依頼で書きますので北村さんに注文を取らせて下さい」
「分かりました。書と絵を合わせることも出来そうなので太白さんとも相談してみます」

 持参した志津の書を額に仕立てることを頼んだ兵庫は、子供たちの声が聞こえて来る裏庭へ向かった。
そこでは六人の子供たちが遊んでいた。
「虎次郎、今日も遊び相手ですか」
「はい、奇数日の朝は私です」
「一人多いですね。どこかで会ったような気がしますが。それとも増えたのですか」
「先生、煙管師の丁次さんの子の鯉吉ですよ」

 丁次は腕の良い煙管師で、それが祟(たた)って奥医師の内田乾山に訳の分からぬ物を頼まれた。それはアヘンを吸引する水煙管だった。
たまたま、乾山の屋敷を出入りする丁次の姿が、見張っていた岡っ引きの勇三らの目に留まったため、知らず知らずのうちに悪事に加担されていることを教え、住まいの在った今戸から駒形の裏店に一家三人を引越しさせた経緯があった。
鯉吉は養育所の子供たちと遊んでいたが、養育所の情況が変わったため、いつしか足が遠のいた。

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Posted on 2018/06/10 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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