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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第110話 お蔭参り(その4)】 

 兵庫が時の過ぎるのを待って居ると、出入り口の障子に影が映り、戸が開けられた。
姿を見せたのは木下佐十郎だった。
「木下さん、久しぶりです」と兵庫から声を掛けた。
「鐘巻さん、居てくれたか。様子が違うので入って良いものか迷ったぞ」
「迷った割には、障子に写った影にはためらいが見えませんでしたが」
「影には、わしの気持ちがわからんのだ」
「いや影は木下さんに行き写しでしたよ」
「そうか、次に来る時は曇りの日にするよ」
と二人はあいさつ代わりに冗談を交わした。
「ところで用は何ですか」
「用はない。非番なので出て来たが、寄る所が無いので足に任せて来ただけだ」
「用が無いのでしたら、折角ですからこちらから伺いますが、屋敷暮らしの中で、何か動きが在りますか」
「特に気が付かないが」
「それでは塙様から何か、話が有りましたか」
「塙様・・お主の聞き出したいことが判ったぞ。額賀のことだろう」
「そうです。子供たちと墓参りに出かけようと思って居るのですが、連れの者も入れると百人ほどに成るので、お身内のお参りの邪魔をしたくないので・・・」
「百人とは驚きだな。墓参りを云々(うんぬん)するような話は無いが身内以外は行かぬだろう。もっとも額賀の身内は邸内には居らん。国からくるか否かはわからぬ」
「木下さんは?」
「わしは額賀の命日には行かぬ。身内の者と顔を合わせるのは嫌だからな」
「それは、分かります」

 兵庫と木下とは剣術を通しての因縁深い関係で、浪人だった木下が駒形の道場で働いて居た時に、水戸藩下屋敷の用人・塙から腕前を見込まれて禄高五十石でさそわれ仕官した経緯がある。
ここで木下佐十郎が額賀の命日に行くのを避けるのは、木下が額賀の首を落としたからだ。切腹での介錯とは違い、打ち首のお役を新参者が腕利きゆえに仰せつかったからだ。

「木下さん。養育所は子供たちと関係者で墓参りに行きますが、十一月二十八日の額賀殿の命日やその前はお身内の方々が参ると思いますので避けます。養育所の者たちの墓参りは命日の後に致します」
「分かった。わしも鐘巻さんに倣うことにするよ」
木下はこれで用が済んだかのように、養育所から出て行った

 木下が帰ってから暫くして、やっと内藤が二階から下りて来た。
「終わったのですか」
「いや、子供たちは保安方の新藤さんに任せたよ。柄の悪い声が鐘巻さんを呼ぶ声が聞こえたので、何か用事があると思い、少し早めに切り上げてきました」
「それはお心遣い有り難うございます。木下さんが寄ってくれたので少し話を聞かせて貰いました」
「木下さんと云うと、ここで修行し水戸藩に仕官した方ですな。お名は何度も伺い存じておりますが豪快なお方ですな。それで、話は養育所と関わりのあることですか。
「はい、額賀殿の墓参りが咎められると云う事は無いようです。養育所の墓参は人数も多いため命日を避け、遅れてすると伝えておきました」
「子供たち全員と関係者に周知させるためには、先ず日取りを決めなければなりませんが、既に決めて有りますか」
「決めては居ませんが、今月中に済ませたいのです。命日が十一月二十八日ですからそれ以降となると・・・」
「今月は二十九日でお終いです」
「それでは二十九日に決めましょう」
「なんですか、選択の余地が無いと云う事は、やはり決めていたのですね」
「そう思われても仕方が有りませんが、木下さんに告げた時は、命日の後にまだ数日在るような気がしていたのです」
内藤は頷き、
「墓参の前にすることで子供たちに出来ることは子供たちに任せましょう。掃除以外に何かさせることが在りますか」と内藤が返して来た。
「墓参り前に浮浪の子供探しをしてもらい、集められた子にも墓参りをしてもらい、亡くなった方々の意志が受け継がれていることを見せたいのです」
「その子供探しは誰に・・・」
「昇龍院と駒形の年長者に頼むつもりです」
「となると、円通寺の掃除などは中之郷と向島に頼むことに成りますね」
「中之郷に頼むことにして、向島の子は養育所の鬼門に祀った地蔵と稲荷の掃除を頼みます」
「それがいいですね」と内藤が同意した。

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Posted on 2018/06/12 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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