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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第110話 お蔭参り(その6)】 

 志津に頼んで書いて貰った和歌を散らした書を、額に仕立てるよう為吉に頼んだ話を終えた兵庫は、志津が聞きたがっている本題に話しを転じた。
「次に額賀殿たちの墓参ですが、水戸藩に仕官した木下さんが駒形に来ましたので打診してみました」
「どの様な返事か、お聞かせください」
「墓参は支障がないとのことでした。そこで養育所の者たちが額賀殿の命日に押し掛けては、身内の方々の静かな墓参を損なう事に成りかねませんので、命日後に墓参すると伝えました」
「命日後の墓参は良いのですが、いつですか」
「今月中に済ませたいので二十九日にしました。他に向島へのお参りは事件が起きた日の二十二日にしました」
「養育所が生まれた経緯を知らない方々が増えて来ています。なぜ養育所が利益を求めないのか知ってもらう良い機会にしたいですね」
「明日の朝食後、子供たちの多くが押上に揃いますので、集まった者たちに墓参の意味を話すことにします」
「分かりました。千丸を引き取りますので、母屋以外の者たちに伝えて来て下さい」
懐炉代わりに抱いて居た千丸を取られた兵庫は部屋を出て行った。

 兵庫が外に出、養育所の見張り所も兼ねている茶店に行き、話が有るので男たちを集めるように常吉に頼むと、直ぐに集まって来た。
集まったのは教授方兼剣術方の近藤小六、保安方の山口藤十郎、雑貨屋修行中の空太、兵庫の幼少の頃を知る佐吉だった。
兵庫の動きは目まぐるしく、一日話を聞かないと養育所で起きていること、養育所が向かう方向を見失う恐れがあるのだ。
男たちにとって兵庫の動きは、絵師が描こうとして筆を動かすのに似て、起きた事件の結末に至る過程で見せる、その思いもよらない筆跡に興味あり、見逃したくないのだ。
今度はどのような絵を描くのか見逃すまい、そんな淡い期待半分で男たちが集まって来たのだ。
 兵庫は集まった者を見て話し始めた。
「知らない方も居られるので養育所のことを話します。その養育所の設立の動機付けをして頂きました額賀様の命日がもう直ぐ参ります。額賀殿は国元の貧しい家の者たちのために養育所を開こうとし、その財を得るために法を犯しました。事情を知らなかった私と山中さんは、多くの人たちを死に追いやってしまいました。罪滅ぼしもあり、額賀殿の遺志を継ぎ、残された金を使い代わりに継志館養育所を駒形に開いたのです」
「やはり事情が在ったんですね」と空太が呟いた。
「この話を、明日、子供たちにも話し、皆がここに集(つど)えたのも額賀様のお蔭であることを教え、お礼に墓参りすることを告げます。皆さんはそれぞれ仕事も有り、明日の集まりに都合がつかない方もおられると思いますので、大きな段取りだけでもお伝えします」
と前置きし、段取りを話し始めた。
「二十二日に向島の養育所に在る稲荷と地蔵にお参りし、二十八日の額賀様の命日はお身内にゆっくりとお参りして頂き、養育所の者は二十九日に円通寺へ墓参りすることにします。皆さんも墓を見ておいて下さい。子供たちにとっては恩人が、どのように扱われて居るのかを知ることも大事ですからね」
「先生、額賀様には子供ばかりではなく、養育所で働く大人も礼を言わねばならない立場です。少し時が在るようなので何でも言いつけて下さい」と古株の常吉がたのんだ。
「有り難うございます。額賀様を喜ばせることが出来るのは子供たちに如かずです。ここは見守り役に徹して下さい。墓参りとは違う役回りが生じたらお願いします」
「分かりました」

 部屋に戻った兵庫が志津から千丸を受け取ると、志津が部屋を出て行った。
志津には、押上に居る女の子に、墓参の機会に与える役割を決めようとしていた。
それは何でも良かった。
男の子の役割、墓の掃除に見合えば良いのだ。
男の子も女の子も最近来た者が多く、今は協力しながら役割を果たすことを記憶に残る墓参の機会に行い成就させることで協力の大切さを学ばせるのが狙いでも在った。

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Posted on 2018/06/14 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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