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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第110話 お蔭参り(その7)】 

 嘉永六年十一月十八日(1853-12-18)の朝食後、各養育所から子供たちとその保安方が集まり広間を埋めていった。最後にやって来たのは昇龍院の子供たちだった。
ただ、深川や薬研堀の子供預かり所に出した音吉にお玉、入谷の竜三郎の飯屋の手伝いをしている千夏に小夜そして草加宿の坂埼道場で修行中のお松とお竹は呼ばれて居なかった。
それには訳が在った。敢えて今日、呼ばなくても良かったからだ。
今、名を上げた者たちは養育所暮らしの古参で、これから兵庫が話す何故、墓参りをするのかを既に教えられて居たからだ。
しかし広間に集められた子供の中に既に墓参りの訳を教えられた者も居た。
文吉、観太、熊五郎、虎次郎、大助らだが、やって来たのは、墓参の意義を聞くためではなく、己や他の子供たちの墓参前にやるべき役割を確かめるためだった。

 広間は立錐の余地もないほど込み合っていた。
込み合うことが分かって居たためか、一番奥の普段使わない上段の間には押上の子供たちが座り、来た順に奥から詰めて座り、その目は皆、下座を見ていた。
皆が揃ったところで、鐘巻兵庫、山中碁四郎、内藤虎之助、中川彦四郎、村上茂三郎の五人が入口の外・廊下にやって来て置かれていた床几に座った。

「朝から集まって頂き、有り難うございます。この広間が一杯になる日が来るとは思っても居ませんでした。これから話すことは私たちをこの様に結び付けてくれた人が居たからです。要するに、この養育所を創ることを教えてくれた人が居たからです。その方の名は額賀雅治殿で一年前に私と山中さんに養育所のことを託して亡くなりました。養育所が出来たのは額賀様のお蔭です。もう直ぐ命日が来ますので墓参りに行き、子供たちは手を合わせてください」
「兄上、お参りはいつ行くのですか」
「額賀様の命日は今月の二十八日ですが、その日には当然お身内の方々がお参りしますので、養育所の者は遠慮して二十九日にします。それとは別に向島養育所の表と裏の鬼門に設けたお稲荷さんと地蔵さんには二十二日にお参りして貰います」
「兄上様、向島のお参りとお墓参りとはどのような関係が在るのですか」
事情を知らない子が尋ねた。
「向島の養育所がある所で額賀様の仕事を助けていた方々八人が亡くなられたからです。その魂を鎮めるためにお稲荷さんとお地蔵さんを建てたのです」
向島養育所の在る所で八人が亡くなったことを知って居る者は少ないのでざわめきが起きた。
「何か祟りが起きることを恐れてのことですか」
ざわめきを鎮めるような問い掛けが子供たちの中から上がった。
「そうではありません」と戸口近くに座っていた志津が応え、立ち上がると、さらに続けた。
「養育所に神仏を祀ったのは、家と土地を譲って頂いた名主の幸兵衛様が心配成されるからです。しかし、その心配は無いのです。神や仏よりも死んでいった方々の魂を鎮めるものが居るからです。それは子供たちです。亡くなられたのは養育所を創ることを願っていた方々です。現実に亡くなられたその場が養育所に成って居るのを日々見ているのですから、祟りなど起こりませんよ。それより・・」と云い、志津は話すのを止めた。
「それより・・なんですか」と気に成ったのか兵庫が尋ねた。
「来年に成れば福が来る吉兆が現れて居るのはご存知でしょ」と謎かけで応えた。
「ああ、これですか」と兵庫は云いながら腹を撫でた。
向島養育所の留守居・村上茂三郎の妻・縫が身籠ったことは公然の秘密だった。
「大切な時期です。静かに見守りましょう」

 話が逸れたが座は和んだ。
「それでは、墓参りを前に、子供たちにお願いすることが在ります。先ず円通寺の清掃を中之郷元町の養育所の子供たちにお願いします。この件については中川殿に昨日話してあります。次に向島の養育所の子供たちには皆がお参りに行く二十二日までに、改めてお稲荷さんやお地蔵さんの回りを掃除して下さい。これも村上殿に話してあります。駒形と昇龍院の子供たちには子供探しをして貰います。飢えと寒さから逃れ、学びの場に身を置き励む子が一人でも多くお参りして貰えれば亡くなった方々の心を鎮めると思うからです。どのような段取りで進めるかは山中さんと相談して決めて下さい。押上の子供たちには・・・」と云い、兵庫は志津を見た。
「女の子たちには、新しく来るかもしれない子供たちが喜ぶ物を作ることにします」

 話が終わり暫くして、男の子たちは押上を出て、それぞれが与えられた役割について話し合う場へ向かった。

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Posted on 2018/06/15 Fri. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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