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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第110話 お蔭参り(その13)】 

 今戸へ入った新藤と子供たちが探索を始めた頃、先程勘八が立ち寄った仕舞屋のような家から女・乙姫が出て来て、今戸とは逆方向へと歩き始めた。
乙姫は行き先が決めて在るのだろう、辺りには見向きもせずに花川戸を抜け、吾妻橋の西詰の大路を横切り川沿いを進み駒形へと入ると少し歩みを緩めた。
勘八から教えられた駒形の養育所に行くのだろうが迷っていた。
乙姫は歩ている町の者に声を掛けた。
「この辺に、薬屋さんが在ると聞いて来たのですが、何処でしょうか」
「継志堂ならあそこですよ」と指さした。
「有り難うございます」
乙姫は指さされた方向へ歩いていくと、薬の匂いを感じ暖簾を分けて店に入った。
「いらっしゃいませ」
「済みませんが、この近くに養育所があると聞いて来たのですが・・・」
「養育所は隣で経師屋の暖簾が掛かって居ます。そこの主は内藤様ですので帳場に居る者に呼んで貰って下さい」
「有り難うございます」
乙姫はやっとのことで養育所の戸を開け中に入った。
「いらっしゃいませ」と帳場番をしながら仕事をしていた経師屋の為吉が迎い入れた。
「養育所の方をお願いしたいのですが」
「お待ちください」
為吉は立ち上がると少し奥へ歩き部屋暖簾に首を突っ込み
「内藤さん、お客さんですよ」と呼び、戻って来た。
 為吉が場を譲ろうと、隣の部屋に引っ込むと、代わりに内藤が出て来て帳場に座った。
「養育所の内藤です。御用は何でしょうか」
「私は六年ほど前にこちらの勘八さんと一緒に暮らしをしていた頃、乙姫(おとひめ)と呼ばれた者で、今の名は乙女(おとめ)で御座いますが又変えなければならないようです。参りましたのは勘八の云う事が真実とは思えなかったので確かめに伺いにまいりました」
「立ち話もなんですから、お上がりください。少ないですが養育所の子供一人と預かり所の子が四人居ますので」

 その奥では内藤の妻・お雪と子供たちが双六で遊んでいたのだが、
「お客様のようだから、私は大井川の川止めにしておいてね」
お雪は客を迎える用意をして待っていた。
帳場から台所経由でやって来た。
「いらっしゃいませ」
内藤に手招かれ乙女は部屋に入り置かれていた座布団を退け座った。
「昔、勘八さんのお友達だった乙女さんです」と内藤が紹介した
「先ほど、今戸へ行く途中の勘八さんが私の姿を見て、聖天町の家に寄ってくれ、ここに居る話を聞いたので確かめに来たのです」
「勘八は用の途中で寄ったので長話は出来なかったでしょうから養育所のことは私からお話いたします。この養育所の開設のため、鐘巻兵庫、山中碁四郎そして私・内藤虎之助の三人で奉行所に願い出た者の一人で、勘八よりは内部事情も話せると思いますのでお尋ねください」
「有り難うございます。不躾なことをお聞きしますのでお許しください。勘八から六年ぶりに乙姫お姉ちゃんと呼ばれたので、姉として気に成ることをお尋ねしたいだけです」
「勘八は幼い女の子・じゃことふなと農家の納屋に住んでいた子で、その二人の暮らし世話していた立派な子です。それはあなたの育て方が良かったからでしょう。何なりとお尋ねください」
「いま、女の子の名が二人出ましたが、二人を置いて出かけるには二人の世話をする者が要るのですか。ここには居ないようですが」
「昔は全員がここに住んでいたのですが、今は届け出を出した子供だけでも八十三人います。ここに八十三人は入れませんので、他に養育所が押上、中之郷元町、向島に御座います。女の子と幼い男の子は押上で寝起きし、ここを出て行く時のために必要なことを教えています。もしここでの話が済んだ後、時間を頂ければ、そこの大助に案内させます」
双六しながら話を聞いていた大助が反応した。
「乙女お姉ちゃん、行きましょう」
乙女は内藤に色々と尋ねたが、勘八から聞いたことと齟齬は無く、一安心したが未だ確認しなければならないことが在った。
「ここには男の子が一人しか居ませんが、押上には子供たちが居ますか」
「居ますよ。三十人ぐらい居ますから見に行きますか」
「はい、お願いします」
「大助、鐘巻大助として支度をしなさい」
「はい」
 二階に上がった大助が再び姿を見せた時は袴を着けていた。
内藤はその大助に、黒漆の木刀を脇差代わりに差してあげた。

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Posted on 2018/06/21 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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