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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第110話 お蔭参り(その14)】 

 駒形を出た大助は乙女の前を歩いた。
それは兵庫が志津を連れて歩く時の早さだった。
その大助に、乙女が話しかけた。
「一人で出歩けるの」
「一人で出歩くためには修行を済ませなければさせて貰えません」
「どんな修行」
「自分の身を守り、相手に大怪我させないように成ることです」
「大助さんは何歳ですか」
「来年七歳に成ります」
「その木刀の使い方を習ったの」
「はい、でも一人なら使わずに逃げます・・」
「でも一人では在りませんね」
「今は昼前です。滅多なことで襲われないので私にも護衛させてくれたのです。心構えの修行一つだと思います」
「お侍みたいですね」
「はい、私の両親は、届け出では父が鐘巻兵庫、母が志津で侍の子になっています。ですから剣術も習って居ますし、論語などの素読もしています」
「凄いな、私は仮名しか読めないから、勘八さんに養育所の目印として継志堂、薬、経師屋、為吉と教えられても人に聞かねばなりませんでした」
「いま勘八さんが手習いと算盤の特訓を受けています。私より遅く来たのに早く養育所を出て行かねばならないので大変なのです」
「大助さんは出て行かないの」
「もう出て行くことは出来ます。同じ年頃の町の子と比べて劣る所が少ないからです。事実私と同じ頃に養育所に入った子で、養子に行った子が一人、これから行く子では男の子が二人、女の子が二人居ます。私にもいつ縁が巡って来るか判りません」

 話ながら二人は大川を渡り、中之郷元町までやって来た。
「あの侍屋敷が養育所で、留守居は有名な切られ彦四郎さんですよ」
「ほんとう!」
「二十九日に向島の円通寺にお墓参りに皆で行きますから、そこに行けば会えますよ」
二人は中之郷養育所の前を通り過ぎた。

 業平橋を渡り押上に入り少し歩くと田畑が広がりを見せた。
「川沿いのあの黒い塀で囲まれた家が押上の養育所です」
そして養育所の前まで来て
「これが十軒店ですね」
「はい、実際に物を売って居るのが七軒で、学問所が一軒、出入り口が二軒です」
「大助、お使いご苦労さん」
「常吉さん、兄上は居ますね」
「千丸に遊んで貰っているよ」
「お客様なので、御守りは私がします」

 表口から母屋に入った大助は、板木を叩き来客を伝えた。
出て来たのはじゃことふなだった。
「兄上様に、勘八兄さんの昔のお友達がお越しになられましたと伝えて下さい」
「かんぱちおにいちゃんのお友達・・かんぱちおにいちゃんのおともだち・・・」
と二人は云いながら奥へと向かった。

 板木が打ち鳴らされた時点で来客が在ることは兵庫に伝わっており、兵庫は知らせが来るのを待って居た。
知らせを持って来たじゃことふなのたどたどしい話を聞き、
「よくお使いが出来たね。偉いね。母上に、話を終えたらお客様を連れて行くと言って下さい」と、次の仕事を二人に頼んだ兵庫は千丸を抱き、上り口に出て来た。
「勘八さんと六年前まで暮らしたことの在る乙姫改め乙女と申します
「鐘巻です。お上がりください」
「兄上様、千丸は私が・・」
「頼みます、部屋で頼みます」
こうして部屋には兵庫と乙女そして大助と千丸が入った。
「勘八のことのようですが、何でも聞いて下さい」
「こちらに参りましたのは、失礼とは存じますが養育所のことが勘八の云うようなところでは無いと疑ったからです」
「それは不思議なことでは在りません。あなたの疑いを晴らすことは難しいですね。今のところは考えた以上に上手く行っていますが、その訳がよく分かって居ません。ですから何かの拍子に行き詰る恐れはあります。ここに来られたのですから、見て帰って下さい。大助、母上の所に乙女さんをご案内しなさい」
「はい、兄上様」
千丸が再び兵庫の元に戻され、大助が乙女の手を取り部屋を出て行った。

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Posted on 2018/06/22 Fri. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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