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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第110話 お蔭参り(その20)】 

 納屋に人が入って来るのを一番恐れたのが潜んでいる三人の子供たちだった。
陽気が良ければ日中は外で過ごせば良いのだが、寒さは腹を空かした子供にとっては厳し過ぎ、夜の活動に備え無駄に体力を失わないように納屋に潜んで居るのだ。
その子供たちに、ももが話しかけた。
「私たちは、サザエさんの知り合いです。ここに男の子が一人、女の子が二人居るので捕まる前に連れ出す様に頼まれて来ました。昼間歩いても平気な着替えと藁草履(わらぞうり)を持って来ました。それとおにぎりも・・・」
「私たちは少し前まで、お前たちと同じように農家に隠れていたのを助けられたんだよ。今日は困ってる子が居るとサザエさんに教えられ、来たんだよ。早く着替えてここを出て、持って来たおにぎりを食べようね」
「カツオ、ワカメ、タラ早くしなさい。外でお百姓さんの目を剣術で引き付けている男の子が疲れちゃうよ」

 三人の名前が呼ばれると、サザエに頼まれて来たという言葉に嘘はないと疑いが晴れたのか藁束が動き手荷物を持った男の子が出て来た。
「男の子だ。そのちゃん、もう着替える時間がない。重ね着させてちょうだい」
続いて女の子が二人出て来た。
この女の子たちも、ももとそでに重ね着されたうえに抱き上げられ、そして外に出て行った。
剣術稽古に見入る百姓は背後で起きていることに気を配ることは出来ずにいた。
三人を納屋から出したことは、一番幼いタラを抱くももがその子を頭の上に持ち上げ、剣術の稽古を仕切って居る浜中に気付かせた。

 防具を着けない竹刀稽古を文吉と観太はこれまでに何度も経験しており、必要以上の打ち込みに成らないように竹刀を止める技にも長けていた。
そうは言っても、竹刀は当たり、打たれた所が赤く染まり、見て居る者を驚かせるのに十分だった。
「止め」
浜中の声が飛び、文吉と観太は分かれ、互いに礼を交わし、莚(むしろ)に座り稽古に見入っていた百姓にも頭を下げた。
「お忙しい所、手を止めさせ申し訳ありませんでした。子供たちも一息ついたようですので、遠足(とおあし)を続けることに致します。有り難うございました」
「有り難うございました」子供たちが唱和し、頭を下げ、庭内から出て行った。

 農家から離れると抱かれていたワカメとタラが下ろされ歩かされた。
そして枯れ芝の堤に来た所で、浜中と新藤は歩みを止めた。
「ここで二班に分かれることにします。私は竜三郎さんの店に閉店近くに行けば残った物を食べさせて貰えるという話を広めながら入谷に行きます。鐘巻先生に指名された子供たちと新藤さんは三人に腹ごしらえをして貰い、その後入谷に向かって下さい」
「分かった」と新藤が応えると、浜中は急遽子供救い出しに参加した者たちを率いて去っていった。

 枯れ芝に座った三人に朝飯か昼飯かは分からないが握り飯と水筒が手渡された。
三人は旨そうに食べながら、
「皆は食べないの」とワカメが心配そうに尋ねた。
「皆、食べたから心配しないでいいよ」
三人はそれを聞き与えられた物を全て食べ、水も飲み干した。
「さっき、お侍さんが竜三郎さんのお店に行くと残り物を食べさせてくれるのは本当ですか」とカツオが確かめてきた。
「嘘では在りません」
「それなら、ワカメ、タラ、一緒に行こうね」
「うん」「うん」とこっくりした。
「その必要は無いよ。三人は竜三郎さんのお店で暮らすことに成るから、毎日、朝、昼、晩食べられるからね」
「そうか、このことを友達にも教えてあげたい」
「その友達は何処に居るの」
「知らないけど、猿若町の物乞いで会う、歌丸だよ」
「猿若町に女を連れて行ったら攫(さら)われてしまうぞ」と文吉が云った
「分かって居るから連れては行かないよ。でも、美味しいものが食べられることが多いんだ」
「そこに行くなら今だな」と観太が呟いた。
「夜に成ってから出直すのでは駄目なのか」と新藤が尋ねた。
「駄目です」とカツオが応えた。
「何故だ」
「新藤先生、芝居は暗くなる前に終わり、芝居客は食べ残した幕の内弁当を下げて帰ります。それをおねだりするか、かっぱらうかは腹の空き加減で決めることですが、歌丸がそこに居られると云う事は、芝居客に悪さをしていないと云う事です」観太が応えた。

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Posted on 2018/06/28 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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