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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第110話 お蔭参り(その22)】 

 歌丸は、目星を付けた客に歩み寄ると
「小さな妹が腹を空かせて待って居るので折り詰めを頂けませんか」と投げかけ、譲ってくれなくても
「お邪魔しました」と一言いい頭を下げ、見送り次の客を探し話し掛けた。
何度か試みると
「たいして残ってはいないよ」
「小さい妹にはそれで十分です」と応じ軽い折り詰めを貰った。
手に入れた折詰を持って「小さな妹が腹を空かせて待って居るので折り詰めを頂けませんか」と投げかけると客が、
「お前の妹は大食いだな」と嫌味を言った。
「これを今晩、明日朝、昼と分けて食べなければならないのです。明日食べ物が手に入らないかも知れませんので、お願いしました。お邪魔致しました」と頭を下げ、次の客へ向かおうとした。
「おい、持っていけ」と背後から嫌味を言った客の声が掛かった。
振り返り、「有り難うございます」と頭を下げて受け取った。
受け取った折詰は期待するほど重くはなかった。
こうして歌丸は三つ、カツオは一つ食べ残しの軽い折り詰めを手に入れた。
「カツオ、もういいよ。昨日手に入れた物が未だ残って居るはずだから」

 カツオから折詰を受け取った歌丸は少し西に歩き、町から離れた寺に入っていった。
カツオ、勘八、観太は歌丸を追わずに境内で待って居ると、傷んだ篭に全財産を詰め担いだ歌丸と先ほどの折詰を大事そうに持った小さい子が二人出て来た。
「縁の下暮らしを止め、竜三郎さんの世話になることにしたよ」と歌丸がいい、これまで幼い子の世話をして来た重荷を下ろした。
「その方が、皆のためになるよ。かわいい二人の名前は」と観太が言い、尋ねた。
「ハコベ」「スズナ」と本人が応えた。
「よし、ハコベとスズナを抱っこして急ごう」
折詰を持った二人が勘八とカツオに抱き上げられた。

 入谷の竜三郎の店近くまで来た所で、観太が
「あの店です。客が居るか見て来るのでここで合図を待ってくれ」
観太は店の前まで行き、漏れて来る声に客がかなり居ることを感じ、戸を開けて確かめることもなくこともなく裏へ回る道に行き手招いた。
「客が居るので裏に回るぞ」と事情を知って居る勘八が云い、道を横切り観太の待つ路地に急いだ。
 裏口から入ると、そこには外で遊べることに成ったワカメとタラがそでと遊んでいた。
「お兄ちゃん」と寄って来た二人が
「この子誰?」とカツオが抱いて居る子を見て尋ねた。
「歌丸さんの妹の・・」
「スズナです」と本人が応え、
「あたいはハコベです」と挨拶し下ろされた。
「あたいはワカメ」「あたいはタラ」と自己紹介が終わった
裏から男の声が聞こえたことで新藤が顔を見せた。
「皆で来てくれました」と観太が報告した。
「そうか、女の子二人については、ワカメやタラのように身繕いを整えた後、風呂屋につれていくので中に入れなさい」
「お風呂、入りたい」「お風呂入りたい」
「ハコベちゃん、スズナちゃん、中に入ろうね」
二人は大事に持っていた折詰を歌丸に渡し、裏口から中に入っていった。
 新しい女の子が家の中に入ったことで、入れ替わるように男たちが出て来た。
その先頭を歩く者に、観太が
「兄上、こちらが聖天町のサザエさんから教えられ探したカツオさんです。そちらがカツオさんに教えられ猿若町で会った歌丸さんです」
「私は養育所を預かる鐘巻です。お二人にお願いがあります。今晩から二十七日の夜まで一人でも多くの仲間をここに集めて欲しい。その後、養育所に入るか浮浪を続けるかは本人次第です」
「鐘巻様、今日の午後少しの間で俺とカツオの二人で折詰を四つも手に入れました。今、奪い合うほど人が居ません。観太さんの話では多くの者が養育所に入ったと聞きました。そのためだと思いますが浅草寺近くでは競争相手を見なくなりました」
「日中ですが既に数日間、人探しをやって来ているのですが、今まで一人も見つかっていません。それで夜にしたのですが、夜も無理ですか」
「俺は、日中は芝居町(猿若町)で折詰を、夜は吉原帰りの者に蕎麦や小銭をねだって居ますが、仲間との争い事は起きていません。物騒で無くなると幼い女は別ですが、女も出て来るのが普通ですが女の姿も在りません。養育所が取りつくしたのではありませんか」
「文吉、観太、今の話はどうですか」
「歌丸の云う事に疑う余地は見当たりません。養育所が子供たちで溢れているのと無関係ではないでしょう」
観太も文吉の話に頷き同意を示した。

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Posted on 2018/06/30 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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