FC2ブログ

11 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.» 01

洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カレンダー

【鐘巻兵庫 第110話 お蔭参り(その24)】 

 矢五郎の話を聞き終わった兵庫が
「事件を無かった事にするのは良いとして、人を殺すと云うのは許される訳が在っても嫌なもので、忘れられるものでは在りません。特に恨みをもって人を殺めた時はその強い思いが有るため何かにつけ我が身を苛(さいな)みます」
「お主が云うのだからそうなんだろうが、何を言いたいのだ」
「人を恨みから殺害し恨みを晴らした女、その罪を赦しても、女自身は罪から逃れられないのです。女を助けないと死んでしまいますよ」
「そう云う事だったのか、それなら久坂は心得ていたようだ」
「どう云う事ですか」
「久坂が女に言っていた。与兵衛の後を引き継がせるから、やって来る者たちに嘘を付かずに助けてやれとな」
「もし、与兵衛の後を引き継ぐことが叶うのなら、監禁されていた女の子を成田屋に戻し、更に女の子の身内も呼び寄せ、子供たちの母を演じることで、与兵衛への憎しみを子供たちへの愛(いつく)しみへと生まれ変わらせて欲しいですね」
「分かった。与兵衛の始末をするためにまだ居るだろうから、手助けを連れて行ってくるよ」
「お願いします」

 押上に戻った兵庫は夕食の席で、子供たちに、竜三郎さんの店に男の子が二人、女の子四人が入ったこと、他にも乙女さんの所では女の子が三人になることを教えた。
ただそれだけだが、女の子にとっては自分が救い出された日のことを思い出すのか、座が和んでいった。

 食後、兵庫は十軒店の茶屋に近藤と常吉を集め、
「竜泉寺町の成田屋与兵衛が殺されました。奉行所同心の久坂さんは、これを事件とせずに済ませようとしています。私はこのことに口を挟みませんので。与兵衛のことについては取沙汰しないようにして下さい」
「分かりました」
「私は久坂さんの手助けに行って来ますので、こちらのことをお願いします」

 兵庫は何処にも立ち寄らずに竜泉寺町の成田屋に着いた。
表は閉められていたため、裏口に回ると灯りが洩れていた。
入ると、そこには既に中川矢五郎・彦四郎親子、何でも屋の弥一、中之郷の二人の番士・心太と三五郎が控えていて、台所には同心の久坂啓介が座り、土間に置かれた駕籠に乗る与兵衛の番をしていた。
「与兵衛の鬢には白い物が混じって居ますね」
「馬鹿な野郎だ。使いきれない金を残して逝っちまいやがった」
「女は」
「ここは嫌だと云うので、何もしゃべるなと口封じをしたうえで聖天町に連れて行き、鐘巻さんの名を使い預けたよ」
兵庫は頷き、
「段取りは」と尋ねた。
「勇三が戻ったら、仏を乗せた駕籠を担ぎ、御厩河岸に行き迎えに来る山中さんの船に乗り江戸湾に出ると云う按配で、途中江戸湾で荷を下ろし、わしは八丁堀まで送ってもらうことにした」
「使い切れない金の番を置かないといけませんね」
「それは本人に持たせてやることにしたよ」
「沈める重りに金を使うのですか」
「金を残して行くえ不明では、事件に遭ったように思われる。金が無ければ何処かへ雲隠れしたと思ってくれるだろう」
「確か、六文以上の渡し賃を持たせると、地獄の沙汰も金次第で地獄に落ちずに弁天様近くの上席に座ってしまいますよ」
「その上席にはわしが座りたいので、わしが持ち帰ることにするよ」
「久坂さん、棺桶に大金を入れてくれると思って居るのですか」
「それもそうだな。それと見慣れぬ大金を残しては後難を招きかねないのでやめるが、どうする」
「折角の久坂さんの段取りですから途中まではよしとして、御厩河岸に着く前に荷の一分を駒形で下ろしましょう。子供たちを売って稼いだ金です。子供たちのために使わせて下さい」
「それでいいだろう」

 二人の掛け合いを聞かされ、笑いを堪えていた周りの者たちも金の落ち着き先を聞き納得した。
足音がして、裏口から岡っ引きの勇三が駆け込んできた。
「山中様と銀太さんが操る船が浮橋を出ました」
「よし、金箱を駕籠に乗せるのを手伝ってくれ」
久坂の頼みに台所に積まれていた金箱が駕籠に移されていった。
そして駕籠が出て行った。担ぐのは心太と三五郎だった。

 ←ボタンを押して頂ければ励みになります。

Posted on 2018/07/02 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

この記事に対するコメント

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://tokinotsuribito.blog79.fc2.com/tb.php/3543-a584db85
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)