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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第110話 お蔭参り(その26)】 

 一日の商いを終えたこの家の主・竜三郎に聖天町から来た五人の女が自己紹介し、世話に成ることを願い出たのは、ここに来て夢の見直しが出来ることを教えられ、確かめられたからだ。
 それは一年ほどの修行を終えた後の己の姿を千夏や小夜という手本の中に見出したのだ。
しかし、己の夢にだけ浸って居るだけでは居られなかった。
「先生、波吉、砂吉を迎えに行きたいのですが」とアマモが言えば
「私も海吉、島平、磯助を・・・」と、アラメが続いた。
「皆、男の子か。どうして姿を見せないだ」
「あまり強くないので同じ年頃の者と出会うのを避けて居るだけです。でもお腹が空くので毎日出て居るはずです」
アマモの応えにアラメが頷いた。
「もう直ぐ誰かが戻って来ます、隠れ場所まで強い子を護衛に付けますので、説得して連れ出しここまで案内して貰えますか。護衛は離れて見ているだけにします」
「分かりました」

 帳場に居場所を変えた兵庫とアマモとアラメの三人が、人探しに出ている子供たちが戻って来るのを待って居た。
五つ(午後八時頃)の鐘が飯屋へ導く合図に成って居たのだろうか、鐘が鳴ると間を置きながら子供たちが戻って来た。
しかし、その中に新顔は混ざって居なかった。
兵庫はその子らに、腹を空かせた子供たちを再度、探しに行き、呼び込むよう頼んだ。
子供たちは一旦上り奥へと進、裏から出て行った。
ただ、護衛として頼りになる文吉、観太、虎次郎、熊五郎は帳場に残し、新しい任務、それはアマモやアラメを隠れ家まで警護し、潜んで居る者たちが無事に飯屋までたどり着くように見守ることだった。

 そしてアマモの護衛には文吉と熊五郎が、アラメの護衛には観太と虎次郎と決まり、店を出て行こうとすると、開いて居た戸口から中を覗く子供の姿が在った。
「海吉、島平、磯助よく来たね」アラメが叫んだ。
腹を空かせた子供たちを呼び寄せようと、竜三郎の飯屋に行けば残り物が貰えると云う話を流しながら歩いた養育所の子供たちの試みは無駄ではなかった。
名前を呼ばれた子供は首だけを中に突っ込み
「アラメだ。ここに居たのか」と入って来た。
「食べに来たんだろう。私はもう食べたよ。上がりなさい、私が運んであげる」
三人の男の子が上り、隅の方に遠慮がちに座った。
アラメは呼びに行く必要が無くなったが、アマモの方はそうはいかなかった。
「文吉、熊五郎、アマモを頼む」と兵庫が促した
「はい、兄上」
三人が出て行き暫くすると、アラメと千夏と小夜が膳を運んで来て、隅に座る男の子を誘い出すように中ほどに膳を並べた。
「ゆっくり、味わいながら、こちらでお食べ下さい」と千夏が促し、千夏と小夜は奥へ戻った
「海吉、島平、磯助、誰も取ったりしないからね」とアラメが安心させた。
そうは言っても、日頃の習慣は簡単には直らない。
飲み込むように食べつくした三人の茶碗にアラメが茶を注いだで上げた。
「熱いから、ゆっくり飲むんですよ」
生まれてこの方、茶を飲んだ記憶など無い三人だが、色々な所で大人が飲んでいる姿は見ているから茶碗を持ち上げた。
それは冷えた手の平を温める心地良いものだった。そして、飯の時とは違い、少しずつ飲んでいった。
食事が終わった所で、
ここでは食べた物は自分で片付けるので膳を持って、ここのご主人の龍三郎様にお礼を言いに参りましょう。

 店には帳場に座る兵庫と用が亡くなった観太と虎次郎が残った。
「兄上、私たちも海吉や島平、磯助と同じでしたか」と観太が尋ねた。
「私はあの三人を見て懐かしく感じたのだが・・どうしてかな」
「やっぱり、同じでしたか。私も懐かしく思いました」

 兵庫等がやって来るかもしれない腹を空かせた子供たちを待って居るとき、奥では竜三郎から海吉、島平、磯助にこの家に入れば今苦労している食事と温かい寝床が約束されることを告げられていた。
「いつまで居てもいいのか」
「この家の決まりを守る事を約束すれば、世の中が子供と思ってくれる間は済むことが出来ますが大人に成ったら出て行って貰います。何も出来ないまま追い出したくないので、ここから養育所に移り一般の子供たちが習って居ることなどを勉強することを勧めています」
「アラメ、お前はどうするつもりだ」
「私はお嫁さんに成りたいので、賄いと裁縫の修行をさせて貰います」
「一年前まで皆と同じだった、千夏や小夜は学問や芸事も身に付けているぞ。男は体を鍛えるため皆が剣術を習っている。皆、侍として躾けられながら町人の仕事も出来るようにいろんなことを教えて貰えるよ」と竜三郎が男の子三人の心を揺さぶった。

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Posted on 2018/07/04 Wed. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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