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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第110話 お蔭参り(その27)】 

 竜三郎に心を揺さぶられた、海吉、島平、磯助は互いに見つめ合い、小声で話していた。
「忘れ物が在るので取りに戻りたい・・・」
「今晩四つまでに戻るか、明日に戻ってもいいよ」
「すぐ戻って来ます」
「アラメ、三人を帳場に居られる鐘巻様に会わせてやりなさい」

 四人が帳場で話を続けていた兵庫、観太、虎次郎の所にやって来た。
「先生、海吉、島平、磯助がお世話に成りたいそうです。宜しくお願いします」
「それは良かった。一年修行すれば、町の者たちに多くのことで勝るここに居る観太や虎次郎のようになりますよ。ここで暫く決められた行儀を覚えなさい」
「はい、頑張ります。これから忘れ物を取りに行き。戻って来ます」
「気を付けなさい」

 三人が飛び出して然程の間を置かず、戸口から覗き込む子供が居た。
「砂吉か波吉か」と兵庫はアマモから聞いていた名を言って見た。
「米吉だよ」「麦次だよ」と二つの顔が中を見回し、そして鼻を鳴らした。
「未だ、残っているよ。何か食べたいのなら雑巾で足を拭いて上がりなさい」
「只だよね」
「その代わり、食べ終わった時に、ご馳走様と云うのを忘れないようにな」
二人は、頷き雑巾で裸足に足を拭き上がった。
兵庫が手を叩いた。
奥から小夜が出て来て
「二人?」と尋ねると、頷いて返した。
「ちょっと待ってね」にも頷いて返した。

 二人の顔には笑みが浮かんでいた。
「他に腹を空かせている仲間は居ますか」
今度は首を横に振った。
 暫くして子供たちがまた鼻を鳴らした。
「先生、いい匂いですね。何が残って居たのでしょう」
「これは、丼物だが、アサリ飯ではない・・」
 奥から千夏と小夜が膳を持って出て来た
「今日は大きな海老が一本残って居たので半分こずつ。他にも良いものが入っているからね。これは、お仲間の歌丸さんが猿若町で手に入れたお弁当を煮込んだものです。私も食べたことが無いものだから、よく味わって、ゆっくり食べるんだよ」
二人は目の前の良い匂いがして、湯気を立てている丼飯に握り箸を突き立て、かっ込み始めた。
丼の中の物にはかろうじて箸を使ったが皿に乗った物は指でつまみ、汁は流し込み椀に残った物には指を使った。
食べ終わった丼に少し注がれた白湯を時間を掛け飲み干し二人の夕飯は終わった。
そして二人は食べ終わった膳を持たされ奥へと行き 、竜三郎に挨拶し、竜三郎から養育所に入り学ぶことを勧められ、戸惑い始めた。

 そうした中、忘れ物を取りに行った海吉、島平、磯助の三人が戻って来た。
「アラメ、取って来たよ」
その声でアラメが出て来て、何も持っていない三人に
「忘れた物って何、見せて」と頼んだ。
三人が懐から出した者は、変哲もない手拭いだった。
「私がお別れの時に渡した物?」
「そうだよ、使わないように仕舞っておいたんだ」
「ちょっと、待って」と云い、アラメが袋を持って戻って来た。
そして、袋の中から石ころを三つ取り出した。
「持って居てくれたの」
「大きくなって会った時に私が綺麗に成り過ぎて分からない時、これを見せれば分かって貰えるからね」
そして四人は、客が食事を摂る店内の板の間から奥へと場所を変えていった。

 この日最後の客となる、男の子を二人連れアマモが戻って来た。
「鐘巻様、波吉と砂吉です。宜しくお願いします」
「挨拶は後にして食事を先にしなさい」
そして、間を置かずアマモの護衛として外に出ていた文吉と熊五郎が店に入った。
「未だ、出かけた者が戻って居ませんね」
「もうすぐ戻るでしょう」といい、兵庫は手を叩いた。
小夜が顔を見せた。
「湯を用意して下さい。もうすぐ戻って来ます」
兵庫の予測通り、浮浪の子供を店に招くために外に出ていた者たちが、続々と戻って来た。
最後に、浜中と新藤が戻って来て、浮浪の子供たちが店内を覗けるように、開け放たれていた戸が閉じられた。

 子供たちが白湯を飲み身体を温めて居ると、竜三郎が今日食事に来た者たちを連れ奥から姿を見せた。
「皆さんご苦労様でした。お蔭でご覧の様に子供たちが十六人、世話をして頂く大人・お二方に来て頂きました。皆さんと話、今夜よりこちらに泊まって頂きます。養育所で色々なことを学ぶことを望んで居ますので、ここで養育所の方のご指導を頂きながら暫く修行して養育所に送り出します。お待ちください」

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Posted on 2018/07/05 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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