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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第110話 お蔭参り(その29)】 

 兵庫が八丁堀の屋敷に着いた時、鐘巻家の跡を継いだ兄は既に出仕した後だった。
また、巳之吉は剣術の稽古に出かけていた。
来た訳を兄嫁に告げ、父・多門の居る隠居部屋に入った。
「養育所の設立を思い立たせた者の墓参りをさせたいとはどういう事だ」
多門は挨拶抜きに本題を聞きただして来た。
「簡単に話しますと、養育所を開くことを考えた者がその資金集めに悪事を働きました。資金不足から悪事を重ねたのを私と山中さんとで邪魔をし、観念させました。その者たちの頭目は裁きを受け死罪となり円通寺に葬られました。私と山中さんはこの事件で二千両の大金を手に入れました」
「二千両・・・」
父・多門と母・初代が驚き目を合わせた。
実は賊退治を請け負った時、賊の金集めの目的は知りませんでしたが、埋葬された寺の和尚の話では養育所を開くことだと聞かされ、養育所を開くことにしたのです」
「事件には成って居ないようだが何人死んだ」
「寺に在る墓は連座も含め十一基です」
「十一・・・」
「それで二十九日朝、文吉をこちらに寄越しますので、巳之吉が墓参りすることをお許しください」
「二十九日だな」
「はい、命日は二十八日なのですが、身内の者が墓参りに来ますので、大人数の子供たちが居たのでは落ち着かないので一日遅らせました」
「大人数の子供たちか、何人居るのだ」
「届け出済が八十三人。これから届けることに成るのが十六人で凡そ百人です」
「百・・・」
「まるでほら話を聞かされているようですね」と初代が云った。
「そのほら話も落ち着く気配を見せ始めています。あっという間の一年でしたが、私のような者には出番のない暇な暮らしが来そうで心配です」
「暇な隠居暮らしも中々良いものだぞ。隠居したらどうだ」
「来年に成ったら考えてみます」

 巳之吉のことを頼んだ兵庫が駒形に戻ると、表口と裏口を繋ぐ通り庭に白木の文机が積まれていた。
「彦次郎さんからです。山中さんが、高田寺から注文を貰った折り畳み文机十台です。値段は手間と材料費合わせて二朱だそうです。平机より手間がかかって居るので売値は一分でどうかと云う事です。それと深川へ届ける炬燵櫓です。他にここに置く見本です」
内藤が説明した。
「それで良いでしょう。碁四郎さんが来たら届ける様頼んで下さい。私は脇に置かれている炬燵櫓を深川に届けてきます」

 兵庫は背負子(しょいこ)に炬燵櫓を縛り付け、大風呂敷を掛けて背負い駒形を出て行った。
深川の涛屋に着いた兵庫は荷を下ろした。
「遅れてすみません、他の注文が入って居たので」
「こんな立派な物が届けられるとは、さっそく温かい炬燵を作って、子供たちが戻って来るのを迎えます」と一枝が応えた
「佐助、梅次郎 松助の三人は如何ですか」
「お昼に成れば友達を連れて戻って来ますよ」
「何人連れてきましたか」
「昨日は男の子二人でしたが、必ず食べ物のお土産を持って帰って行きますから、女の子が隠れているのでは」
「分かりました。子供たちのために温かい炬燵を用意してあげて下さい」
板の間にござが敷かれその上に櫓が置かれ、この日のために用意しておいたのか、大き目な布団が被せられた。
それが済むと、炬燵に入れる炭火を熾すために一枝は奥へと消えていった。

 暫くして炭火を入れた十能を持って来て、炭火を火鉢に移し、その火鉢を炬燵櫓の中に納めた。
「これで同時に多くの子供たちの手だけでなく足も温められます」

 そして音吉と外で遊んでいた預かり所の子供たちが戻って来た。
「兄上、いらっしゃいませ。今日は何ですか」
「それは、炬燵に足を突っ込んで話しましょう」
兵庫は炬燵に足を突っ込んだ。
音吉は駒形で炬燵の存在を知っていたが、預かり所の子供たちは炬燵が何なのか知らなかった。
「皆、兄上が炬燵の櫓を運んで来てくれたよ。足を突っ込むと温かいよ」
音吉は上がると炬燵に足を突っ込んで見せた。
「温かい」と音吉が云うと子供たちも次々に上がり炬燵に足を突っ込みほのかな温かさを感じ顔をほころばせた。

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Posted on 2018/07/07 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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