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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第110話 お蔭参り(その31)】 

扇屋を出た兵庫は待たせていた網吉に、
「おみよさんと永吉を涛屋まで送って下さい。そして音吉に元鳥越の服部先生の所に行き、誰か医者を一人深川まで案内させて下さい」
「分かりました」

 兵庫等は富吉の案内で母の雇われている料理屋の前まできた。
暖簾には“あけぼの”と染抜かれていた
「母ちゃんの名はしゅんです」と富吉が兵庫に聞かれる前に告げた。
兵庫は微笑み返し富吉の頭を撫でた。
店に入ると、客を迎える挨拶が、腰を低くした男から掛けられた。
ここでも扇屋の時と同じように事情を話すと、男が、
「確かにおしゅんさんは臥せることが多いのですが・・・連れて参りますので、少々、お待ちください」とその場に待たされた。
その間に、富吉が「母ちゃんだ」と云った。
その声で兵庫が奥を見ると女の姿が消えて行くのが見えた。
更に時が経ち、身繕いした女が手荷物を持ち、男に付き添われ姿を見せた。
暇を出されたのだ。
そのしゅんに、男が一言いい紙に包んだ物を手渡たすのが見えた。
それは表から送り出す者への僅かな気遣いだった。

 店の外に出てしゅんは兵庫や外で待って居た子供たちに
「富吉のこと有り難うございました」と頭を下げた。
 永吉の母・みよにしても、富吉の母・しゅんにしても店を出て路頭に迷う訳には行かなかったが、一緒に住める所が在ればもはや店に留まる必要は無かった。
こうしてみよと永吉親子、しゅんと富吉親子が涛屋に住むことに成った。
そしてみよとしゅんの病はやって来た医者・服部要蔵の診立てでは滋養の有る物を食べなかった者の症状ゆえ、同じような症状の者たちの多くを治した養育所の食事が薬に成ると、長居はせず帰っていった。
 兵庫は母二人には何よりも養生することを言い、子供二人には音吉について学ぶことを命じた。そして、元気に成れば親子が暮らせる場所と仕事を与えることを約束した。
そして佐助、梅次郎 松助に
「よくやった。今日はここに泊まり明日は駒形に戻りなさい」
「分かりました」
「音吉、子供の顔には親の様子が出るからよく見るんだよ」
「はい、兄上」
「網吉さん。やなぎやに子供の分を頼んでおきますので、明日にでも取りに行って下さい」
「分かりました。おみよさんとしゅんさんの分はどうしますか」
「それは、歩ける様に成ったら連れて行って下さい。好みが在りますので」
「分かりました」

 深川で一仕事を済ませた兵庫は、途中古着屋・やなぎやに寄った。
「先生、内藤様からまた注文が入りました」と久美が嬉しそうに言った。
「それは良かったですね。深川の涛屋の子供預かり所に七・八歳ぐらいの男の子・二人と母親二人を寝泊まりさせることに成りました。子供の分は明日、網吉さんが取りに来ますのでお願いします」
「用意しておきます」

 兵庫が両国橋を渡り、薬研堀の方に向かい子供預かり所に近づくと箏の音が聞こえて来た。
「お玉先生が弾いて居るな」とつぶやき、寄ることなしに向きを変えた。
浮橋に寄ったが碁四郎は出かけていた。
さらに元鳥越の医師・服部仲明の治療所に寄り、深川に医師を派遣してくれたことの礼を云い、駒形に向かった。

 駒形の養育所までやって来た。ただ掛かって居る暖簾・経師屋為吉が目に入るため、板看板の継志館養育所・駒形に目が向かない。暫くすると調度屋の暖簾か看板が掛かることに成り養育所の影は更に薄れる。
 暖簾を分け、戸を開けて入ると山中碁四郎と内藤が話をして居た。
「ご苦労さんです。私も折り畳み式文机十台を高田寺に納めてきましたよ」
「深川の子供預かり所ですが、先程親子二家族四人が入りました。母親は過労で身体を壊し子供の世話が出来ず、逆に世話をされて居ました。本来なら子供を預けて仕事をすれば良かったのでしょうが、子供は七・八歳だったので預けずに頑張りすぎたようです」
「預かり所は、預かって居る子の親のことにも気を配らないといけないと云う事ですね」
「はい、ただ親を見続けることは出来ないので、その代わりに音吉には子供たちをよく見ろと言っておきました」
「親をみること子に如かずですか」と碁四郎がおどけた。
「それと内藤さん、探索は終わらせ佐助、梅次郎 松助が明日戻って来ますので頼みます」

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Posted on 2018/07/09 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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