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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第110話 お蔭参り(その32)】 

 兵庫、碁四郎、内藤の三人が取り敢えずの情報共有を済ませた。
「今日は朝から歩き回り、思い浮かんだことが在ります」と兵庫が話題を変えた。
「聞かせて下さい。多少の出費ならご用立てできますよ」と内藤がたまたま転がり込んだ大金を後ろ盾に云った。
「養育所が中之郷元町の侍屋敷を手に入れた時、将来表門と裏門の間に店を作り商いしながら、子供たちにも商いを覚えさせようと考えていました」
「悪くないと思いますが、何が不満なのですか」と碁四郎が首を捻った。
「不満は無いのですが、ここ駒形の養育所ですが、どちらかと云えば経師屋で更に調度屋もやることになりました。やはり、商いするなら浅草の方が何かと利点が多いからです。ですから中之郷元町の屋敷内に店を造るのは・・と思ったのです」
「それでは中之郷元町はあのままですか」
「庭には店よりは養育所の者たちで教えることが出来る、学問・手習い、技能、作法などの道場を極力養育所の者たちの手で造るのはどうかと・・・」
「屋敷内に店は造らないとなると肝心な物はどうするのかな」と碁四郎が尋ねた。
養育所にとって店は子供たちの修行の場でもあったが、どちらかと云えば安定した収入確保に狙いが在った。
「まだ決まった事では在りませんが、聖天町と竜泉寺町に空き家が在ります。その一つでも安く借りられれば仕舞屋状態に放置せず開店させることが出来るのではないかと考えたのです」
「分かった、久坂さんに頼み竜泉寺町の成田屋に住むのを許して貰いましょう」
「となると、住み込む者を選ばないといけませんね」
と内藤が碁四郎の話を受けて更に話を進めた。
「いま手が空いて居る者が居ますか」
「居ますよ、二人」
「誰ですか」
「浦島で二階から飛び降り足を折った勘三郎と富五郎です。道普請は終わって居る話も届いて居ますので子供たちと遊んでいるのでは在りませんか」
「よし、私が久坂さんと会い竜泉寺町の成田屋に入る許可を貰うので兵さんは勘三郎と富五郎をここに連れて来て下さい」

 駒形を出た兵庫は中之郷の養育所に入り、留守居役の中川彦四郎と隠居の矢五郎に先ほど駒形で碁四郎や内藤と話し合ったことを話した上で、
「久坂殿には山中さんが話に行って居ますが、龍泉寺町の成田屋に空き巣が入らないように今晩から人を住まわせたいので勘三郎さんと富五郎さんをお願いに参りました」
「二人なら、道普請が終わり戻って居ます。出番が続き喜ぶでしょう」

 中之郷元町の養育所を出たのは兵庫、勘三郎、富五郎そして矢五郎だった。
矢五郎は竜泉寺町の成田屋を簡単に手放しては久坂の思いを無にすると出張って来たのだ。
四人が駒形の養育所に入ると既に碁四郎が戻っていた。
「久坂さんは如何でしたか」
「居られませんでしたが、勇三さんに“わしは成田屋のことには関わって居ない”と言い残したそうです」
「わしらのやることを見守ってくれると云う事だ。行こう」と矢五郎が急かした。
「矢五郎さん、成田屋の方は良いのですが、聖天町の仕舞屋は入谷に一時避難した乙女が預かったものです。聖天町も空き家にして置けないので乙女の了解を得ておきましょう」
「それもそうだな。女の家に入るとなると開かずの間に立ち入らないようにせぬとな。誰が入るか判らぬが」と矢五郎は勘三郎と富五郎の二人を見て笑った。

 碁四郎が加わり五人が入谷へと歩んだ。骨折した二人、江戸患い(脚気)の矢五郎と足の悪かった三人が居るのだが、すでにその全治したかのように歩いていた。
竜三郎の店の奥に五人は入ったが、そこには乙女も珊瑚も居なかった。
新しく来た者たち全員が、二階で千夏から養育所の決まり事、作法を教えられ、実践していたのだ。それに大人の乙女と珊瑚が加わった訳ではないが、ためになることが多かったため見入っていた。
 階下から名を呼ばれた二人は心残りで下りていった。
そこに居た侍たちを見て、部屋の外で即座に座り手を付き頭を下げた。
二階で子供たちが教えられていた、部屋に入る前の作法だった。
「入りなさい」と兵庫が促した。
二人は立ち上がらず、頭を下げたまま膝行して部屋に入りさらに上座の侍衆に向けて頭を低くした。
「聖天町と竜泉寺町の家のことで言っておかねばならないことが在ります。こちらの頼みでも在りますので頭を上げて聞いて下さい」

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Posted on 2018/07/10 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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