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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第110話 お蔭参り(その34)】 

 嘉永六年十一月二十七日(1853-12-27)、この日も子供たちを中心に夜が明けていった。
子供たちのために関わる大人は多い。しかし、兵庫は朝稽古に付き合う程度で、学問、手習い、技能、芸事などはそれぞれの指導者に任せており、兵庫の出番は無い。
ただ、子供たちにとっての手本は兵庫と志津であるため、子供たちの耳目に障らないようにしなければならない。
 そんな気遣いをしなければならないのだが、兵庫は然程苦労することはない。それは侍として躾けられながらも、サンピン侍にも成れない部屋住みの身で、侍と町人の汽水域育ちだからだった。
養育所の子供たちも侍としての躾をされながらも合わせて町人として生きる術も教えられる汽水域で暮らして居るからだ。
 その兵庫は朝食までを子供たちと過ごすと、志津に寺と周辺を見て来ることを告げ、押上を出た。
先ず押上から円通寺への道を歩いた。
平らに均され、突き固められた道には蹴りたくなるような石ころも無く、子供たちの几帳面な仕事ぶりが見られた。
そしてそれは水戸下屋敷に繫がる道でも同じで、轍などが残る表通りよりはるかに歩きやすい道に成って居た。
 兵庫は道普請の見分を途中で止め、足は浅草に向かい、吾妻橋を渡っていた。
駒形の養育所に行っても、話し相手の内藤は子供たちの指導をしており邪魔は出来ない。
兵庫の足は駒形とは反対の聖天町の仕舞屋へとやって来た。
その仕舞屋は間口三間の土地に間口二間の切妻の二階建ての家が奥に向かって細長く建てられている。
この辺りは間口の狭い切妻側を表に見せた店が並び、廂間(ひあわい)の路地が裏木戸への入り口に成って居る。もちろんその入り口には木戸が設けられていて、棒手振りなどが出入りできるように成って居る。

 表口は開いて居て、首を突っ込むと奥から聞き覚えの在る女の声が聞こえて来た。
「お琴、来て居るのか」
兵庫の声で女が出て来た。まぎれもなく中之郷元町の養育所内の離れに棲む剣術方根津甚八郎の妻・お琴だった。
「まさか富五郎の話相手に来たのではないだろうな」
「矢五郎様からこちらの賄い能力を調べるよう頼まれたのです。どうやら入谷の子供たちを中之郷元町の養育所で受け入れるために、中之郷養育所で修行中の男たちをこちらや成田屋へ移すことを考えて居るようですよ」
「なるほど、入谷には子供たちが十六人居ますが、どの養育所もまとめて引き受けるには手狭ですからね」
「それと、中之郷に居る女は少ないので・・・」
「それで、賄い能力はどうですか」と兵庫は話を戻した。
「煮・炊きの釜を乗せる竃(へっつい)が一基ですから、ニ十食でここからお弁当を持参で出かける人が居るとここに住める人の数はその分減ります。ただしニ十食の賄いをするには他に七輪や下ごしらえをする流しなどが在った方がいいですね」
「皆大食いだから、竃をもう一基増やした方が良さそうですね。私は部屋を見せて貰います」
 この家は表店だが暫く商いをしていない仕舞屋である。住人は成田屋与兵衛の妾・乙女だが、その乙女に成田屋が子供を預け仕込ませる場にしたと思われるが、疑問もあった。
疑問の一つは乙女がかろうじて仮名が読める程度だと云う事だ。これでは何を教えられるのだろうかという思いが有った。
 兵庫は疑問を解こうと、上がり口の広い板の間に上がり、奥に入るため仕切りの障子を開けた。
そこは乙女の部屋の様に思えた。そして乙女が何に秀でて居るのか部屋に置かれている物を見て分かったような気がした。
「歌舞音曲か・・・」と呟く兵庫の目の先に三味線、鼓、舞扇などが置かれていた。
部屋のさらに奥には台所に成って居た。表上がり口の板の間を踊りなどの稽古に使って居たのだろうと兵庫は思いながら、二階に上がった。
そこには階下の区切りと同じように三部屋に分けられていた。その一部屋に三味線が置かれていた。
朧気ながら、乙女の辿って来た道が見えたような気がした。

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Posted on 2018/07/12 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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