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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第110話 お蔭参り(その35)】 

 聖天町の家を己の目で見終えた兵庫は、その時家にいた富五郎の他にお琴、中之郷元町で賄い修行中の勝太と夏吉、それとお琴の用心棒として来た保安方の仁吉に竜泉寺町の成田屋へ行くことを告げ、聖天町を後にした。

 成田屋は聖天町の仕舞屋と比べるとかなり大きい。建物のほとんどが板塀で囲われている。表通りの一分塀が切れたところが出入り口だが、目隠しの網代塀が在り家の出入り口は外からは見えない。
 兵庫が成田屋の表に着いた時も入口には出入りを妨げる鉢植えの木が置かれていた。
兵庫は塀伝いに裏へ回ると裏木戸が在り、閂を外すと戸が開いた。
勝手口から家に足を踏み入れるとそこには勘三郎が手あぶりを抱えていた。
「雪駄が二足並んで居ますが、中川親子ですか」
「寝て居るのを起こされました」
「朝飯未だのようですね、食べに行って来て下さい」
「そうしたいのですが・・・」
「勘三郎さん、手当は私と同じなのですよ。渡したのをみな飲んじゃったのですか」
「面目ない。久しぶりで止まりませんでした」
兵庫は財布から一朱取り出し、財布を振って見せ、一朱銀を渡しながら、
「人が来た時、与兵衛の倅に居て貰わないと困ります。早く戻って来て下さい」

 兵庫は勘三郎が戻るまで広い台所を見て回った。
道具類は暫く使われた形跡がないが充実していた。
家の作りから成田屋はこの辺りでは著名な料理屋だったように思えた。
ただ、与兵衛が料理屋の主とは思えないが、珊瑚がここに来た十年ほど前には主に成って居たことに成る。表の成田屋の軒看板は風雨に晒され見る影もなく、かろうじて金文字だった昔の面影を残すに留まっていた。

 成田屋を生かして使うのなら、看板の掛け替えは必要だがやはり料理屋が良さそうに思えた。しかし、店構えからすると料理の他に多少の媚も売らねばならない料理屋となり、それは養育所とは似合わない。
役者は幾らでもいるのだが・・・兵庫の顔が緩るみそうになったのを引き締める足音がして姿を見せたのが、中川矢五郎と彦四郎親子だった。
「鐘巻さん、良い所に来てくれました。ここは魑魅(ちみ)魍魎(もうりょう)の住処だったと改めて思わされたよ」
「何か見つけましたか」
「ああ、与兵衛が残した書付だよ」
「話して下さい」
「与兵衛は金貸しから、身を起こしている。この店も借金の形で手に入れた物だよ」
「金貸しは想像の範囲内ですが」
「金貸しが借金の形に物を取るのは確かにありふれたことだが、与兵衛は借金の形の取りにくい武家には変わった形をとっていたよ」
「どの様な」
「鐘巻さんなら思いつくかもしれないが、与兵衛は集めた浮浪の娘を武家に養女として受け入れさせ嫁に出せる年頃まで武家娘にしたて仕立て上げさせていた。さらにこの娘を武家娘として商家の嫁に送り込むと借金を棒引きにした。代わりに、与兵衛は商家から武家が作った借金以上の礼金を受け取るという流れだ」
「なるほど、似て非なる点が多くありますね。先ず、集めて居るのは浮浪の娘だけでなく男の子も居ます。他人に頼んで武家娘の様に仕立て上げさせるのではなく、養育所の者が自ら子供たちに武家の躾を教えています。さらに嫁に送り込むのではなく、先様の願いを受けて、子供が受け入れれば、養子に出す話を進めています」
「それは分かって居る。何よりも与兵衛と養育所が違うのは、与兵衛は自分のためにするのに対して養育所は子供たちのためということだ。与兵衛が残した書付はかなりあり今後見て秘められている災いの有無を確かめて置かないと与兵衛が受けるべき災いを我らが受けることに成りかねないからな」
「私も早めに与兵衛が関わった記録を読み、備えを怠らないようにしたいと思います。書付の置かれている部屋はどちらですか。もう直ぐ勘三郎さんが戻りますので、戻ったらお願いします」
「わしがここの番をする。彦四郎、案内してあげなさい」
兵庫は彦四郎に従い、台所から出て行った。

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Posted on 2018/07/13 Fri. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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