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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第110話 お蔭参り(その37)】 

 昼食後、押上を出た兵庫は暫くして駒形に入った。
「何ですか」と呼び出しに応じて先に来ていた山中碁四郎が尋ねて来た。
「内藤さ~ん」
兵庫は碁四郎に応える前にもう一人内藤を呼んだ。
そして出て来た内藤に、
「これから竜泉寺町の成田屋に行くので半刻ほど付き合って下さい。与兵衛は金貸しをしていた記録を残しています。成田屋に関わることでどのような災いを受ける恐れが有るのかを今後読み解きたいのです。今回はその場をのぞき見する程度で結構です。付き合って下さい」
 一旦奥に引っ込んだ内藤が、両刀を差すのは重いのか脇差一本で、その代わり重そうな手荷物を持ってお雪を従え出てきた。
「奥さん、内藤さんを半刻ほどお借りします」
「先日金箱が届いた時に、この日が来ることを待って居たようです。半刻とは言わず心行くまで・・」

 駒形を出て、聖天町の乙女が居た仕舞屋前を通り、竜泉寺町の成田屋の角までやってきた。
「ここです」と兵庫が足を緩めた。
「捨てるのはもったいないですね」と内藤が云った。
「はい、それでは裏に回りましょう」
表の板塀を辿って行くと表の口に暖簾が掛けられ、朝方は入れないように置かれていた鉢植えが無くなっていた。
「表が開いて居ますね。入りましょう」
兵庫、碁四郎、虎之助の侍・三人が何の躊躇(ためら)いも見せずに暖簾を潜ったのは、金を借りる客という後ろめたさが無かったからだろう。
 格子の引き戸、寒さ避けの障子戸を開け入って行くと、元料理屋を彷彿させる土間、上がり框、ただその先には客を拒むように帳場格子、そしての内側に矢五郎が座っていた。
「内藤さん待って居たよ。そっちの仕事が終わったら代わってくれ」と矢五郎
「客は来ましたか」と内藤
「幸い一人も来なかったよ」と笑った。
「内藤さん矢五郎さんに呼ばれていたのですか」と兵庫
「矢五郎さんから、貸し金の身返納がまだかなりの居て、月末でもあり客が来るとの読みで呼ばれました。これは軍資金ですが新規の貸し付けは断る予定です。矢五郎さん預かって下さい」と持参した重い手荷物を渡した。
三人は脱いだ履物を持って上がり奥へと入っていった。

 兵庫は碁四郎と虎之助を文机が三つ並んだ与兵衛の部屋に案内した。
「真ん中が金貸しの帳簿類だそうです。内藤さん座って下さい。私は内藤さんの右に座ります。浮浪の子供たちのことが書かれたものを見ます。碁四郎さんは借金の形に入れた物のことが掛かれているのを見て下さい」
「話を聞くと質屋もやって居たと云う事ですね」と碁四郎が云った。
「それは金貸しの上限を超えた相手や、身元の不確かな相手に逃げられないようにですよ」
と内藤が説明した。
「碁四郎さん借金の形は別の部屋に整理されていますよ」
「後ほど帳簿と合わせて見ます」

 兵庫は帳簿を並べると天保十年から嘉永六年まで年毎に一冊と分かり易く整理されていた。その中から十年前の天保十四年を開き見て行くとサンゴの名が在り、天保十四年八月に吉原のはつね屋に三十両で売られたことが記されていた。
 次に、乙女の記録を探した。乙女の歳は推測すると二十三・四。与兵衛の所を尋ねたのは十四歳では駄目で十六歳と本人が言っているから、与兵衛を訪れたのじゃ七・八年前と導き出し、兵庫はその年の記録、七年前・弘化三年を開くと、乙女の記録が見付かった。
長い記録を纏めると、乙女は花街に売られることなく嫁修行させられることに成った。
読み書き算盤は与兵衛が教えたが評価は良くない。
しかし、己の妾に指導を頼んだ実務と芸事では、芸事に興味を示した乙女の才能が目覚め花を咲かせたことが書かれていた。
他に、妾が姿を消したことが一行書かれていた。
乙女が与兵衛の妾にされたのは芸事を教える者が必要だったからかもしれない
現在の乙女が育てられたおおざっぱな経緯が分かった。

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Posted on 2018/07/15 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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