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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第110話 お蔭参り(その38)】 

 珊瑚と乙女の記載を読み終えた兵庫は、最新の嘉永六年の帳簿を手にした。
その帳簿を開く前に気付いたことがあった。
それは他の年の帳簿と比べて開かれた形跡が少ないことだった。
実際に開いてみると、帳簿の半分以上が白紙だった。
そして記載された最後の方に、“この年、何の異変か娘の足遠の、遠のく”と書かれていた。  
その記載の後に成田屋にやって来た娘は久坂らが御用改めで成田屋に押し込んだ折りに閉じ込められていたアマモとアラメの二人だった。
二人の意志でやって来た者が逃げるとも思えない。何故、閉じ込めたのかの記述はなかったが、もしかすると閉じ込めたのではなく匿ったのではないかと兵庫は思った。
与兵衛にとって娘たちは宝だった。
何もせずに花街に打っても三十両になるが、育てて送り込めば百両を超える礼金を得ることも出来たからだ。
成田屋を頼って来る娘たちが多い時は選別したが、少なくなると大事に育て高い礼金を得られる嫁の斡旋に舵を切ったのではないか・・与兵衛が亡くなった今、そのことを確かめることは出来なくなっていた。

 人、それも養育所としては放ってはおけない浮浪の子供たちを金儲けの種にして来た与兵衛が残した帳簿を拾い読みした兵庫は、
「済みません」と一声かけて耳目を引き付けた。
「与兵衛を頼って来た子供たちのことで、入谷に引き取った乙女、珊瑚、さざえ、アマモ、アラメに付いては事実が書かれて居ると判断しました。他に良い話が一つありました。嘉永六年に成って頼って来る浮浪の子が減ったことが書かれて居ました。これは養育所に引き取られる子が増えたためだと思って居ます。取りあえず帳簿内に記載された子供で、与兵衛の支配下に居る者は居ないので、額賀殿の墓参りが終わる今月末までは、既に養育所の支配下に移った子供たちのために動きます。来月からは帳簿に書かれた子供の中で苦界に売られた子を買い戻そうと思います。その金は与兵衛が残した金や物で賄うつもりです。未だどのくらい使える金が残って居るか確かめて下さい」
「分かりました」
「先日は売られた子が恨みを晴らしにこちらに来ました。金を借りた者の中に恨みを持つ者が居るかもしれませんので多額の借財をした者、そのために大切な物を形に取られた者を帳簿から抜き出し、中川さんに知らせて下さい」
「兵さん、大事な子供に差し当たって急ぐことが無いのなら、明日明後日のことを進めて下さい。金と物の方は任せて下さい」

 成田屋のことで金と物は碁四郎と内藤に頼み、兵庫は明るい内に押上に戻った。
その兵庫に志津が、
「子供たちを散歩に連れて行って下さい」
「明後日の支度は終わったのですか」
「はい、二十二日に向島に行ってから今日まで閉じこもって居ましたから、冷たい外気に触れさせて下さい」
「分かりました。支度させて下さい」

 暫くして女の子たち二十六人と子供たちの姉としてその座を確かなものとした志乃が支度を終えて庭に集まった。
と云っても幼い男の子二人と、その子が行けるのなら私もと婆様も加わっていた。
 二十二日に向島に稲荷や地蔵にお参りした時には護衛や男の子が付いていた。
しかし、今回は先頭に兵庫、殿(しんがり)に志乃が歩いた。
女の子たちにとって女だけで歩けることが、ある意味浮浪からの脱却を意味していたからだ。
浮浪の子たちにとって恐ろしいのは浮浪の子ではなく、町の子だった。
浮浪のこと町の子との違いは、見た目だった。
だが、先日まで浮浪の身で粗末な物をまとっていたが、今は並の町の子たちよりは良い物を着ている。更に着こなしも少しずつだが上達していて、町の子の目は昔の蔑みから今は羨望の眼差しへと変わっていることを感じていた。
もう、町の子は敵ではなくなっていた。
女の子たちは晴れて周りを気にせずに、散歩を終え押上の養育所に戻って来た。
その普通の子に成ったことを喜ぶ女の子たちを志津が出迎えた。

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Posted on 2018/07/16 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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