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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第111話 落し所(その3)】 

 お昼を食べに押上に戻った兵庫は、同じく大工仕事から戻って来た彦次郎に、
「浅草竜泉寺町の成田屋の外造作を思い切り変えて貰いたいのです。この件は内藤さんが仕切りますので内藤さんの所へ行って下さい」
「造作を変えねばならない何か訳が在るのですか」
「成田屋を頼った多くの娘が騙されて吉原に売られたのです。ここだけの話ですが成田屋は恨みを持って吉原を出た女に先日殺されました。吉原にはまだ売られた二十五人が居ます。その者たちをなんとか吉原から救い出し、遅ればせながら成田屋を頼った時の望みを叶えさせてやりたいと思って居ます。その二十五人の望みを叶えさせるため修行させるのが因縁の成田屋に成るので、見覚えの在りそうな外回りを先ず変えて下さい」
「分かりました。竜泉寺町の成田屋ですね。飯を食ったら、早速内藤先生に挨拶しに行って来ます」
「お願いします」 

 昼食後、部屋に戻った兵庫は志津に
「成田屋与兵衛が書き残した帳簿には吉原に売られた娘が珊瑚の他に二十五人居ます。この娘たちを出来るだけ早く引き取る相談を、四郎兵衛さんを仲立ちにして始めます」
「結構なお話ですが、二十五人も引き取るには三十人ぐらいは住める家が必要ですが、どこか当てが御座いますか」
「何が何でも成田屋を手に入れようと思って居ます。成田屋の残した物を使い、娘たちが昔、成田屋を頼った望みを叶えてやるつもりです」
「お手伝い致しますので近々連れて行って下さい」
「手伝うために家を見に行くと云う事は・・」
「数人なら兎も角、十人を超す女を納めるには、やりて婆が居なくては始まりませんよ。それと私たちの部屋が空けば入谷の娘たちを引き取れるでしょう」
「入谷の娘たちのことは何とかなりますが、二十五人の女となると男では納められませんね。考えさせて貰います」

 二十五人の女を引き取るのは金を掛ければ誰にも出来ることだが、引き取った後、女たちの望みを叶えることは難しい。
思っても居なかった志津の申し出は兵庫に一つの答えを与え、気を良くさせた。
 押上を出、再び成田屋に入った兵庫は矢五郎から二十五人の女たちの記録を渡された。
「四郎兵衛に渡すものだそうだ」
「これは四郎兵衛さんがここに来たら渡すことにしますので、預かっておいて下さい」と言い残し、兵庫が成田屋を出て行った。

 兵庫は吉原通いをしないので用が無い限り出向く事は無い。
兵庫が思い出せる用とは今年の八月一日の紋日の前日、七月の末に客の侍・それも腕達者が何人も人を斬り、手が付けられないのでと四郎兵衛に頼まれて夜、出向いたことだった。
その時兵庫は通りの奥で討手が来るのを待つ侍を見た。それは兵庫と栗橋関所で立ち合い稽古をした番士の島田益次郎だった。
 島田はわざわざ栗橋から兵庫の所に稽古に来ていたのだが、江戸の水に毒されたのか稽古を止め、吉原に通った。そして明日、八朔の紋日を前に金が尽きた。紋日のために用意されていた白無垢が目に入り島田は狂った。
 弟子に成ったかもしれない島田を斬った兵庫は涙を流し吉原を出た。それ以来吉原に足を踏み入れてはいないが、兵庫には四郎兵衛に頼む用が出来た。

 日本堤、見返り柳、衣紋坂、五十間道と歩み、大門を潜ると右側にある会所へ足を踏み込んだ。
まる四か月振りだが、会所の者たちは兵庫を見て迎える態度を取って見せた。
「鐘巻様、何で御座いましょうかと」四郎兵衛が腰を上げた。
「済みません、お願いが有るので、秋葉常燈明辺りまで付き合って頂けませんか」
「構いません。この日が来るのを待って居ました。遠慮せずに言って下さい」
四郎兵衛は会所を出て行く兵庫の後を追い会所を出て行った。

 追いついて来た四郎兵衛に
「竜泉寺町の成田屋与兵衛をご存知ですか」
「はい、存じております」
「ここだけの話です。或る方の命が掛かって居ますので他言無用です。私も四郎兵衛さんに教えないことに成って居ますが、ことを急ぎたいので真実を申しますので、これから申すことは知らないこととして振る舞って頂けますか」
「鐘巻様は正直に云うから、私には嘘を付けと云うのですね」
「はい、ご存知でしょうが私は嘘が下手なのです。ですから私の代わりに嘘を継いでください」
「変な理屈ですね。噓を肥しに生きて来た私です。ただこれまで鐘巻様にお願いすれば力に成って頂けました。鐘巻様から頼みが在れば力を貸すことを惜しみません。たとえ仲間を騙すことに成ってもね」

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Posted on 2018/07/23 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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