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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第111話 落し所(その4)】 

 二人は言葉遊びをしていたが兵庫は頃よしと思ったのか真顔になった。
「与兵衛は珊瑚に殺されました。これが真実ですが、御用改めに来た南町の声を聞き逃亡したことにします」
「珊瑚とは、先日、年季会明けてここを出た女ですか」
恨まれる稼業の与兵衛が殺されたと聞いても驚かないが、殺したのが先日まで花魁だった女と同じ名のため、驚き確かめた。
「はい、与兵衛が残した帳簿にははつね屋に三十両と記載されて居ました」
「そこまで分かって居ると云う事は・・・」と四郎兵衛は云い、思いを巡らしていたが
「頼みとは何でしょうか」と本題を聞いて来た。
「与兵衛の帳簿には第二・第三の珊瑚に成りかねない二十五人の娘が吉原に売られたことが記載されて居ました。問題は娘たちは与兵衛に買われたのではなく騙された子供たちだと云う事です。成田屋に来て頂ければ二十五人が記載された帳簿を確かめて頂き、その写しをお渡しして、お願いを伝えたいと思います」
「分かりました。成田屋は存じれ居りますので、こちらの用を済ませたらお伺いいたします」
 常燈明あたりで話を終えた兵庫は四郎兵衛に別れを告げ引き返していった。
成田屋に戻って来ると賑やかに成って居た。
彦次郎が大工見習修行中の総三郎と浜吉を連れて来て、家の外観をどのように変えるか相談をしているようだった。
「彦次郎さん、成田屋の看板を頼りに来る客がまだ居ますので、外すのは出来るだけ後にして下さい」
「分かりました。先ず塀の模様替えから始めます」
「彦次郎さん、今の縦張りを横張りに」と総三郎が打診した。
「そうだな。今ある塀を上手に使えば、皆の手間代だけで済みそうだな」
「金は物に掛けるのでは無く、人に掛けるのが養育所のやり方でしたね」と浜吉がおどけて言った。
 兵庫は開いて居た表口から入った。
成田屋の中に入ると帳場に午前中に話し合った碁四郎や内藤が戻っていた。
「どうでしたか」と内藤が確かめてきた。
「四郎兵衛さんがもう直ぐ来られます」

 四郎兵衛が成田屋にやって来たのは兵庫が戻ってから、茶が出て飲み干すほどの間で、兵庫の呼び出しに対し他の者と相談などしなかったようだ。
「呼び出して済みません、お上がりください」と帳場から執務部屋に場を変え、更に中川矢五郎が集まった。
「四郎兵衛殿、こちらが中川矢五郎殿です」
「御高名は聞き及んでいます。宜しくお願い致します」
「それでは早速ですが二十五人の娘たちの記録の写しをお渡しいたします」
渡された書付と与兵衛が残した帳簿とをしばらく見比べていた四郎兵衛が
「普段は源氏名で呼んでいるので戻って各楼主の持って居る人別と照らし合わせないと二十五人居るかは分かりません。例えば松葉屋に売られた“ほたる”が唯一人源氏名と名が一致しましたが、この娘は産後の肥立ちが悪く亡くなって居ます。楼主の惣吉さんがほたるの産みたいと云う願いを聞き入れたのが仇となったのか、それで良かったのか。産まれた子は養育所に預けました」
「今、恵介と名付けられ元気に育って居ます」
「ほたるも喜ぶことでしょう。ところで残りの二十四人が居たとして、何をすればよいのでしょうか」
「出来れば残って居る者全員を引き取らせて頂きたく、楼主殿を説得して頂きたいのです」
「楼主を説得する一番の方法は」
「金だと云う事は存じています。もし一人あたり買値の三十両なら払える金は逃げた与兵衛が残していきました。しかし、その金は娘たちを引き取るためではなく、育て直すために使いたいのです」
「何も知らずに吉原を出た娘たちに、いくら金を注いで育て直せるとは思いません。楼主を説得できませんよ」
「同感です。ただ、多額の金を用意するのは、娘たちにもう金を稼ぐために日を送らないで良いことを教えるためです。金の心配せずにやりたくても出来なかったことを学んで貰うためです。それを指導するのは男では出来ません。幸いやりて婆を若菜が買って出てくれました心配せずに楼主を説得して下さい」
「まさか奥様がやりて婆をやるというのですか」
若菜は兵庫の妻・志津の源氏名であった。
「はい、私と志津と千丸は押上を出てこちらに移ることに成ります」
兵庫の話を聞いていた皆が驚いた。同時にそれ以上の名案は出て来なかった。
「分かりました。やってみます。何か脅されると思って来たのです。その手を使って貰えれば、鐘巻様や奉行所の名を出せば済み、私もやり易かったのに、参りました。少し時が必要ですがなんとかしますのでお待ちください」
「宜しくお願いします」

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Posted on 2018/07/24 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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