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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第111話 落し所(その9)】 

 押上に戻る途中兵庫は中之郷元町に立ち寄り、留守居の中川彦四郎に剣術方の根津甚八郎を押上に移し留守居役にすることを告げた。
このことは事前に父・矢五郎から聞いて居たこともあり、何の支障もなかった。
その上で、空席と成った中之郷元町の剣術方を彦四郎に引き受けて貰った。
彦四郎は両替商・宮古屋事件での唯一の生き残りで、斬られ彦四郎の異名を持つ肝の座った剣客であった。腕前は甚八郎に劣るが実戦を乗り越えた名はかわら版が出されたこともあり知られており、剣術指南の看板を掲げれば門人を集めることに疑いはなかった。

 中之郷元町を出た兵庫の脇には甚八郎が加わって居た。
その一行がやって来るのにいち早く気が付いたのはやはり保安方の常吉だった。
午後に引っ越し荷物を引き取りにやって来ることは常吉から大人たちに伝えられていて、それが子供たちにも及んでいた。
その兵庫たちがやって来たことが、改めて伝えられた。一行が着く頃には女の子や向島から遊びに来ていた男の子たちも迎えに出て来ていた。
「荷車は表口内に二台用意してあります」と常吉が告げた
「有り難うございます」
 兵庫等は十軒店の表口から入り、母屋の前で
「佐吉さんと志乃殿で一台使って下さい。佐吉さん、押上で使う物は残して下さい。不足は買い入れますので」
「分かりました」
この様子を見ていた子供たちに
「女の子は志乃姉さんを、男の子は佐吉爺様の手助けをして下さい」
子供たちが助ける佐吉と志乃の元に分かれた。
「甚八郎、手伝って下さい」と兵庫が誘った。
 兵庫の部屋に入った甚八郎は、既に荷造りを終えているのを見た。
「運び出すだけのようですね」
「それでは相方を頼みます」
重い兵庫の刀箱、調度類、かさ張る布団、衣類などの大物が荷車に乗せられた。
「細かい者は子供たちに任せましょう」
「そうですね。きっと喜びます」と甚八郎が相槌を打ち兵庫と甚八郎の荷運びは終わった。
兵庫は佐吉と志乃の手伝いをしている子に
「そっちの手伝いが終わったら、こっちの方も頼みます」と告げ部屋に戻った。
戻ると志津が、
「ここは、甚八郎がいま居る中之郷の離れより狭いことが判ったでしょう。お琴を説得しなさい」
「そうですね。お道からの貰い物が多くて・・」
「神田庵に多くの大人の女が来る予定です。差し支えの無い物があれば分けて貰えれば助かります」と打診した。
「伝えておきます」

 暫くして、子供たちの声が近づいて来た。
そして、開いて居た障子端から首を出した。
「皆入っていいよ。千丸の物が有るから運んで荷車の籠の中に入れて下さい」
こうして、荷の積み込みは終わった。
「甚八郎さんがここに入り落ち着いたら、床磨きに何人か派遣して下さい」と志津が頼んだ。
「床磨きですか?」
「神田庵は、元は料理屋でそれなりの手入れをしていたようですが、与兵衛の持ち物に成ってから金貸し・人売りに専念んして家の手入れを怠ったようです。新しい主と成ったのが私たちです。新しい入居者として迎えるのは吉原から参る荒んだ者たちです。吉原は客商売で店の手入れは行き届いて居ます。手入れが行き届いて居ない家に入るのでは、心の荒みが和らぐどころか増します。新しい主と成った私たちが成すべきことは住む家を先ずは磨くことです」と周りにいる子供たちにも分かるように言った。
「私、床磨きに行きたい」「私も・・」
「分かりました。明日の午後にでも糠袋を持たせ何人か判りませんが送ります」と依頼を受けた。
「有り難う」

 荷に縄が掛かったのを見て荷車の周りに養育所の者たちが集まって来た。
「急と云えば急ですが、筋書きのない芝居の中に養育所は存在して居ます。その中に突然現れたのが竜泉寺町の成田屋改め神田庵です。今日からは養育所の者として神田庵で芝居をすることに成りましのでそちらに移ります。これから押上で演じるのは根津さんです。よろしくお願いします」
 挨拶が終わると、荷車が動き出した。
兵庫と志津の荷車は常吉が、もう一台は雑貨屋を営んでいる空太が牽き竜泉寺町に向かって行った。

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Posted on 2018/07/29 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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