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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第111話 落し所(その11)】 

 兵庫は一人で昇龍院に向かい、着くと文吉、観太、大助、佐助、梅次郎の子供五人と、保安方の浜中松之助、賄い方の団吉を集めた。
「団吉さん夕食の支度中の忙しい時に呼び出して済みません。用件は夕食後、子供たち五人を竜泉寺町の元成田屋に移って貰うことになったからです。それで団吉さん、明日の朝の五人分の食材を譲って欲しいのです。これが団吉さんへのお願いです」
「分かりました、明日の朝の分なら未だ残って居ますので、用意いたします」
団吉は部屋から出て行った。
「子供たちは私物と布団を荷車に乗せて下さい。私と浜中さんで食事前に運んでおきます。戻った浜中さんの案内で竜泉寺町の元成田屋まで来て下さい。ただし、浜中さんはこの仕事を済ませたら昇龍院に戻って下さい。なお成田屋は近々神田庵に生まれ変わりますので心得ていて下さい」
子供たちが私物と布団を荷車に乗せるため部屋から出て行った。

 暫くして子供たちが戻って来て、
「荷造りが終わりました。明日の朝の食材五人前も乗せて在ります」
「よし、浜中さん付き合って下さい」
 兵庫は浜中を案内しながら子供たちの荷を神田庵まで運んだ。

 こうして戻った浜中に案内された昇龍院の子供たちが神田庵にやって来たのは兵庫等が夕食を食べ終わった時だった。
 子供たちの荷が置いてある表口の板の間に子供たちと浜中、そして兵庫、勘三郎と佐吉が向かい合った。
「ここは元料理屋でしたが、十年以上前に金貸しを営む与兵衛の物と成りました。以降、この家の数多くの部屋は使われることなく年月が流れました。皆を呼んだのはこの家の二階に住んで貰い部屋にぬくもりを取り戻して貰うためです。部屋は沢山在りますので、一人で二部屋を使って下さい。やることは受け持った部屋で手の届くところは触って下さい。はたきを掛け、箒で掃き、雑巾で拭き、床や柱を磨きこの家にぬくもりを取り戻して下さい。住んでみると気付くことが在る筈ですが、具合の悪いことが在れば佐吉さんに申し出て下さい」
「私は原っぱの真ん中に寝たことは在りますが部屋の真ん中に一人で寝たことは在りません。今晩は眠れそうも在りません」
「大助、眠れないのはこれが出るかもしれないからな」と文吉が両手先を胸の前で下げて見せからかった。
「その時は、死んだふりしていれば自然と眠れます」
「大助は寝つきが良いからな」
話に冗談が混じり始めた。
「勘三郎さん、夕映えが残っている間に皆を二階に案内して回って下さい。浜中さんも回ってみて下さい」
「待って居て下さい。手燭を持ってきます」
子供たちは己の荷を背負い、荷の多い文吉などはさらに両手でも抱え上げた。
手燭を持った勘三郎がやってくると、勘三郎を先頭に階段を上がっていった。

 残された兵庫が同じく残された佐吉に
「中庭が一番の難敵ですね」と佐吉に任す中庭の整備の話を始めた。
 ここの庭は、ほぼ真四角な家の中に明り取りのためか、六間四方の中庭がある贅沢な造りなのだ。
「植えてあったものか生えたものか。客が喜ぶ庭から客を泣かす庭に代わり今度は、ここに住む者たちが遊べる庭に変えようと思って居ます」
「いずれにしても道づくりから始めて下さい。子供たちが手伝えますから」

 兵庫と佐吉が話して居ると、子供たちの声が台所の方から聞こえて来た。
どの階段を下りたのかは定かではないが、この家には二階への階段が三ヶ所ある。
一か所は表口近くに、二つ目は北西の隅に、三つ目は台所近くにある。
姿を見せたのは浜中と千丸を抱く勘三郎だった。
「子供たちは母上と志乃姉様の手伝いを、邪魔ものはこちらへ・・」
と千丸を兵庫に渡しながら、
「お風呂に入ってくださいとのことです」
「分かりました。佐吉さん火をお願いします」
こうして浜中は昇龍院に戻り、勘三郎は表口を閉めた。

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Posted on 2018/07/31 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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