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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第111話 落し所(その13)】 

 夜が明けた後、未だ看板は掛けられて居ないが神田庵で目覚めた者たちは、それぞれの仕事を始めていた。そうした中、この家の女住人の志津と志乃が朝食を作り、支度が出来たことを知らせる板木が打たれた。
仕事をしていた男たちは手を洗い台所に集まって来た。
「朝食の場は鐘巻の部屋にします」と志津が告げた。
この家は元は料理屋だが使用人が食事する決められた部屋はない。しいて言えば台所か台所に隣接する部屋だが、納戸状態で、こうした中に先日保護されたアマモやアラメが閉じ込められていた。
 集まって来た者たちは脚付きの膳を持って兵庫の部屋に入った。
「部屋は沢山在るのですが、整理が出来ていませんので、暫くはこんな按配で行きましょう。私は今日、一日中こちらに居て、彦次郎さんに使って頂くことにします」
こうして、神田庵の二日目が本格的に動き始めた。

 一方、一日の午後、兵庫から二十五人の娘たちのことが記載された書付を渡された吉原会所の四郎兵衛のその後を追ってみる。
会所には曲輪内住人の人別帳が在り、特に遊女については逃亡を防ぐために最新が維持されて居る。
ただ、成田屋の与兵衛が残した人身売買の記録の写しには、四郎兵衛が馴染んでいる花魁の源氏名は無い。
更に、吉原には千人を超える花魁が居たため探し出すのは大変なのだ。
手掛かりは本名と売られた妓楼の名とその年月だった。
花魁については毎年人別帳が改められていた。
四郎兵衛は一人、信望強く調べ始めた。
そして、書付と齟齬なく二十五人が吉原に入ったことが帳簿上で確かめられたのが二日の夕刻だった。

 四郎兵衛は二十五人の内、亡くなって居る一人・“ほたる”を除く二十四人が成田屋に騙され吉原に売られたと兵庫から聞かされていた。さらにその二十四人を兵庫は引き取りたいと頼まれていた。何事も金で話がつく吉原だが、金は引き取った娘たちのために使いたいと云われており、金を使わずに話し合いで娘たちを手放して貰わねばならなかった。
それは四郎兵衛にとって難題だった。
その難題を話し合わねばならない相手が多いことだった。
何と、与兵衛は娘たちを売る相手を全て変えていたため説得しなければならない相手は二十四人居るのだ。
二十四人の楼主を一堂に集めて話しても、それぞれ癖がある者たちばかりで話を纏めることは出来そうもない。
纏めるとすれば相手が得意とする手を逆手に使い、脅すことだ。
脅す者は脅しに弱いからだ。
しかし、この手は郭内に火種を残すため使えない。
皆を納得させたうえで、娘たちを解放してもらわねばならない・・・

 四郎兵衛にしてみれば苦境に陥ることは分かって居たが、兵庫からの頼みは吉原が知ってか知らずか犯している罪から救う一面があった。
放置すれば殺された成田屋の悪行が吉原に及ぶ恐れがあるのだが成田屋が殺されたことは内緒だった。

 手詰まりを感じた四郎兵衛は会所の者たちを集め、
「先日、鐘巻様がお越しになられたことは承知の通り、その後私が竜泉寺町の成田屋に出かけたのも承知の通り。だが成田屋が鐘巻様の物に成って居ることは言ってなかったな」
「成田屋に出かけたのは鐘巻様に会うためだったのですか。成田屋与兵衛はどう成ったのですか」
「与兵衛は南町の御用改めの声を聞き、裏から逃げた。南町が屋内を調べるとかどわかされた娘二人が見付かった。同時に残されていた帳簿も見つかった。その帳簿にはかどわかされた娘が吉原に売られていることが書かれていた。南町の同心はこのことを事件とすると吉原に騒動が起こると思い、成田屋を私と縁の在る鐘巻様に預け、吉原に災いが起らぬように鎮めろと任せたのだ」
「それで鐘巻様からどのようなお話が有ったのですか」
「今、吉原には与兵衛にかどわかされた娘が二十四人居ることが、頂いた帳簿の写しと、ここに在る人別帳を照らし合わせ確認された。鐘巻様は吉原にとって災いの基に成る娘・二十四人を引き渡して欲しいと申された。娘たちを奥様に預け世の中のことを学ばせるとのことだ」
「奥様とは、あの奥様ですか」
「そうだ、あの奥様だ。私が出向いた時は居られなかったが、もう済んで居るかもしれない」

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Posted on 2018/08/02 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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