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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第111話 落し所(その16)】 

 四郎兵衛は一旦会所に戻り、松葉屋惣吉に云ったように、竜泉寺町の鐘巻様の所に行って来ると告げ大門を出た。
竜泉寺町は吉原大門からは北西の方向で直線距離なら目と鼻の先ほどに近いが、直線の道はない。
大門を出た四郎兵衛は吉原を行き来する客を相手にする店に挨拶しながら、目的地とは遠ざかりながら日本堤に上がった。
そこまでくれば四郎兵衛の足を妨げる者は居ない。田、畑の間の道を抜け二日前に来た成田屋まで来たが表の様子が変わっていた。
塀が以前の板塀から、一分だが板と細竹を束ね板代わりに交互に使い落ち着いた味の在る塀に様変わりしていた。
四郎兵衛が変わった様子に目を奪われて居ると
「四郎兵衛さん、いらっしゃい」と声が掛かり、少し離れた塀の切れ目から兵庫が顔を見せた。
「例の件で、お願いがあって参りました」
「お上がりください」
表口から上がった四郎兵衛を先日同様与兵衛の執務部屋へと案内する兵庫に、
「お願いは申し訳ないのですが奥様に・・・」
「えっ、もう神通力は無いでしょう」
「惣吉さんの話では半分は残って居るので、もう半分と合わせてお願いに参りました」
「それでは、部屋を変えましょう」と兵庫は、中庭を囲む東廊下を向こう正面の北廊下へと歩んだ。
「庭の手入れを始めましたか」
「はい、あの欅も倒すそうです」
「切るのならご神木に成る前ですが、倒すと梢が軒に当たりそうですな」
「高い所に上りたがる者は私以外にも居るので、その心配はするだけ損ですよ」
 二人は直行する北廊下までやって来た。
兵庫は北廊下の東端に在る部屋暖簾で見えない台所に向かって
「四郎兵衛さんがお越しです」と知らせた。

 兵庫の部屋の前室に入り、兵庫が四郎兵衛に上座を譲ると、四郎兵衛は上でも下でもないほぼ対等の左、右の座を選び座った。
 呼ばれた志津が部屋にやって来て下に座った。
「私が四郎兵衛さんにお願いしたことを果たすために、志津に頼みが在るそうです」
「何かお役に立つことが出来るのですか」
「はい、取り敢えず二つです。一つは私の隣に座って居て欲しいのです」
「そういうことですか。分かりました、お引き受けします」
「有り難うございます。二つ目が私たちには思いつかないので、考えて頂きたいのです」
「その様な難しいことが在るのですか」
「私たちはお歯黒どぶに囲まれた世界に居るので、外の力の借り方が分らないのです」
「もう少し、分かり易く。出来れば単刀直入でお願いできませんか」
「この件は松葉屋惣吉さんの知恵を借りに今朝伺い話し合ったのですが、私の隣に奥様に座って頂いても二十一人の楼主の半分ぐらいだろうとのことでした。残りの者を金以外で納得させるには、郭内で困って居ることを鐘巻様のお力で解決することだとおしえてくれたのです。奥様なら中で困って居ることが判ります。またその中から鐘巻様のお力で解決できるものを選べます。両者の落し所を土産として持って来て頂けませんか」
「お答えする前にお尋ねしますが、二十一人の楼主についてですが、お渡しした娘たちの名簿には亡くなったほたるを含め二十五人居り、その売られた先は重なることなく二十五の店でした。亡くなったほたるの楼主・松葉屋惣吉さんを除いたとしても二十四人の楼主のはずですが・・・」
「これは失礼いたしました。足らない三人については既に見受けされ吉原には居りませんでした。お待ちください」と云い四郎兵衛は懐から紙の束を取り出した。
そして、その中から兵庫が渡した書付を開いた。それには朱記が加えられていた。
「身請けされたのは、まめ、うに、ふきの三人でございます。他にトンボが扇屋から三浦屋に籍を変えております」
「分かりました。同席のこと、落し所のことお引き受けいたしますが、今日明日はご勘弁いただき明後日・五日以降にして頂けませんか」
「分かりました惣吉さんが、使われ亡くなって居る揚屋を用意してくれるそうです」
「揚屋ですか・・・光栄ですが・・」と云い言葉を止めた。
四郎兵衛は用事を果たした喜びを隠さず戻って行った。

 部屋に戻った兵庫は志津に
「何か思い当たる落し所でも在るのですか」
「中には困って居ることが数多く御座います。それを一々あげてもきりが在りません・それよりここで出来ることは多くは在りませんので、ここで出来ることを落し所にして頂くしか他の落し所は在りません」
「話は分かりますが、ここで出来る落し所とは何ですか」
「旦那様とも思えませんね。養育所に関わる者たちの殆どが弾かれ者たちです。中にもそうした弱い者たちが居るのです」
「例えば?」
「年季が明けても戻る所が無い者ですか・・」
「なるほど」と納得したのか兵庫の顔が明るくなった。

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Posted on 2018/08/05 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

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